もうマット・デイモンの”そっくりさん”とは言わせない!『憐れみの3章』で飛躍の実力派、ジェシー・プレモンスのキャリアを辿る
「この顔に見覚えあり」。名前までは記憶していなくても、映画やドラマで一度見たら忘れられないインパクトを残し、再び別の作品で目にした時に「また、この人か」と思い出す俳優がいる。ジェシー・プレモンスは、そんな一人ではないだろうか。そのプレモンスが今年(2024年)のカンヌ国際映画祭で男優賞に輝いた。名実共にトップスターの仲間入りを果たし、今後はその名前が多くの人たちに定着するはずだ。 【写真を見る】「FARGO/ファーゴ」で夫婦役を演じたキルスティン・ダンストとプライベートでも結婚することとなった ■異なる3つのキャラクターを演じた『憐れみの3章』 プレモンスが男優賞を受賞したのは『憐れみの3章』(公開中)。『女王陛下のお気に入り』(18)、『哀れなるものたち』(23)と2作連続してアカデミー賞作品賞候補になった、鬼才ヨルゴス・ランティモス監督の最新作だ。タイトルが示すように、3つのパートで構成された本作。その3つは分断された無関係のドラマながら、メインキャストがすべてに登場し、別の役を演じるという斬新なつくりだ。プレモンスも3役を演じている。 第1章では、上司から危険な任務を強いられる男。第2章では、海で行方不明になった妻が生還するも、別人ではないかと疑う警官。そして第3章では、新たな教祖を探して旅をするカルト教団の一員。どれもがメインキャラクターで、しかも一筋縄ではいかない役どころにプレモンスは、外見はもちろん、演技のアプローチも変えて挑んでいる。さらに3つのキャラクターが、もしかしたら同一人物かと錯覚させる離れ業も見せており、カンヌでの受賞に納得してしまう。いずれにしてもこの俳優の真の実力に、多くの人は圧倒されるはずだ。 ■アカデミー賞作品賞ノミネート作品に次々と出演 現在36歳のジェシー・プレモンスはここへきて大ブレイクしているが、3歳で子役としてキャリアをスタートしたベテラン俳優でもある。大きな注目を集めたのがテレビシリーズの「Friday Night Lights」(06~11)、および「ブレイキング・バッド」(08~13)の最終2シーズンで、後者では悪役の演技が高く評価される。そしてドラマ「FARGO/ファーゴ」(14~)のシーズン2ではエミー賞にノミネート。ここで夫婦役を演じたキルスティン・ダンストと、プライベートで結婚して話題となった。 映画では、とにかくアカデミー賞に絡む作品への出演が多いプレモンス。ポール・トーマス・アンダーソン監督で主要キャストがアカデミー賞にノミネートされた『ザ・マスター』(12)では、フィリップ・シーモア・ホフマンの息子役で、新興宗教の教祖である父親への複雑な心境を名演。その後、『ブリッジ・オブ・スパイ』(15)と『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(17)と、スティーヴン・スピルバーグ監督作に続けて出演。『バイス』(18)では、交通事故で命を落とし、主人公のディック・チェイニー(クリスチャン・ベール)に心臓を提供する男、『アイリッシュマン』(19)ではアル・パチーノ演じる全米トラック運転手組合委員長の養子役と、ここまでの4作はすべてアカデミー賞作品賞にノミネート。ゆえにプレモンスの“顔”が脳裏に焼き付いた人も多い。 ■プレモンス自身もアカデミー賞候補に そして2022年のアカデミー賞では、出演した『ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償』(21)、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(21)という2本の出演作がアカデミー賞作品賞ノミネート。妻のダンストと共演した後者では、粗暴な兄(ベネディクト・カンバーバッチ)に対して繊細な弟役で、控え目ながら静かに怒りを湛える名演技を披露。プレモンス自身も初めて助演男優賞にノミネートされた。その後も捜査官役で出演した『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(23)に出演し、ここまでアカデミー賞絡みの作品と数多く関わる俳優も珍しい。 ■『憐れみの3章』『シビル・ウォー アメリカ最後の日』を経てのブレイクに期待! そんなプレモンスには、一つだけ悩ましいネタがあった。キャリアの初期から「マット・デイモンに似ている人」と言われ続けていること。実際に子役時代、『すべての美しい馬』(00)でデイモンの幼少期を演じており(本編ではカット)、確かに顔のつくりや雰囲気はそっくり。デイモンも共演当時を「自分の実際の子ども時代より、彼のほうが僕の子ども時代そのものだった」と懐かしみ、デイモンの親友ケイシー・アフレックは「2人は声も似ている」と発言している。 長年、そのネタによってデイモンの“影武者”的な扱いも受けてきたプレモンスだが、その立場もそろそろ変わるかもしれない。『憐れみの3章』の翌週には、カメオで出演した『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(10月4日公開)も控えており、短い出番ながら彼の演技は背筋を凍らせるレベル。2作を合わせて観れば、演技部門でオスカーに到達するかも…と多くの人が確信するのではないだろうか。 文/斉藤博昭