『パディントン』&『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』の関連性とは?ポール・キング監督が影響を受けた偉大な英国作家たちからのレガシー
あのティモシー・シャラメが、風変わりな凄腕チョコ職人のウィリー・ウォンカを演じる!そう、「チャリチョコ」の略称でもおなじみ2005年の大ヒット作『チャーリーとチョコレート工場』で、ジョニー・デップが演じたチョコレート工場長の若き日の役柄。チョコレート工場を作るまでの青年ウィリー・ウォンカの姿を描いた話題の最新作が『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』(公開中)だ。 【写真を見る】美しい歌声とダンスも披露するティモシー・シャラメの爽やかな存在感! ■原作者、ロアルド・ダールの世界観に寄せた『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』 ところが奇才ティム・バートン監督の手により、かなりクセの強いブラックな味つけが施された「チャリチョコ」に比べると、今回はだいぶテイストが違う。どうやら原作者である英国の作家、ロアルド・ダール(1916年生~90年没)の精神に改めて立ち戻ったようなのだ。『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』の制作チームは、「チャリチョコ」の原作であった児童小説「チョコレート工場の秘密」(1964年刊)の世界や作風を大切に守りながら、オリジナルストーリーを創作。まるで本当にダールが書いていたかのようなすばらしい傑作に仕上がっている。 共同脚本も務めた監督はポール・キング。1978年生まれ。出身は米国シカゴだが、やがて英国に渡り、ケンブリッジ大学を卒業したインテリ。おもにコメディの分野でテレビ業界のディレクターとして活躍し、映画監督業も手掛けるようになった。 ■ポール・キング監督の名を世界に知らしめた「パディントン」シリーズ 彼の出世作は2014年の『パディントン』である。英国の作家、マイケル・ボンドの児童小説のベストセラー「くまのパディントン」シリーズを原作にしたもので、2017年の続編『パディントン2』共々、興行的に大成功を収めたばかりか批評家陣からも絶賛を受けた。この当時から『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』までずっと組んでいるのが、「ハリー・ポッター」シリーズ(2001~11年)のプロデューサーとして知られるデイビッド・ヘイマンである。 この「パディントン」はファミリームービーの体裁を取りながら、実は「社会派」の含みを持たせている。それがキング監督の卓越だった。南米ペルーの密林から、単身で大都会ロンドンにやって来た若きクマのパディントンは、すなわち移民である。見た目も明らかに異質で、人間界の慣習も知らない彼は、新天地では圧倒的なマイノリティとして扱われ、悪戦苦闘の連続。それでも彼の優しい性格と、親切な人々との出会いを通して、だんだん街のコミュニティに受け入れられていく。 ■ディケンズ作品のような市井の人々が助け合い、懸命に生きる姿 かつてキング監督は、映画『パディントン』には英国の国民的作家であるチャールズ・ディケンズ(1812年生~70年没)の名作小説「オリヴァー・ツイスト」からの影響が大きいと語っていた。孤児の少年の成長を描いた「オリヴァー・ツイスト」をはじめ、「クリスマス・キャロル」や「デイヴィッド・コパフィールド」など、社会の片隅で生きる人々のハードな現実を、ユーモアや楽観主義で包み込むのがディケンズの作風である。そして今回の『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』も、やはり同様にディケンズ色が強いように思えるのだ。 「いつか世界一のチョコレート店を作る」という亡き母親(サリー・ホーキンス)との約束を胸に、ほとんどお金もなくチョコレートの町にやって来た純粋な青年ウォンカは、その夢を意地悪な大人たちに邪魔される。彼の味方になってくれるのは、安宿で一緒になった孤児の少女ヌードル(ケイラ・レーン)など、恵まれない貧しい人たち。ウォンカと市井の人々の共助や共生、分配といった主題は、ロアルド・ダールの前にはディケンズがいる、という英国の偉大な作家の系譜を示すようでもある。 ■豪華英国俳優たちの競演も必見! 「チャリチョコ」で人気爆発した奇想天外なキャラクター、『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』(公開中)でもパロディが行われていた小さな紳士ウンパルンパを演じるのは、『パディントン2』にも出演していたヒュー・グラント(思えば1987年の『モーリス』でブレイクした若き日のグラントは、『君の名前で僕を呼んで』のシャラメのような「王子様」だったのだ!)。 さらにオリヴィア・コールマンや、「Mr.ビーン」ことローワン・アトキンソンなど、(資本的にはアメリカ映画ながら)英国を代表する豪華キャスト陣がしっかり脇を固める。そのなかで美しい歌声とダンスも披露するティモシー・シャラメの爽やかな存在感が本当にすてき!王道のファンタジー・ミュージカルにしてヒューマンストーリーとして結晶した『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』は、すでにスタンダードの風格を備えているのだ。 文/森直人
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