静岡空港新駅 対話の扉開くか 県要望30年超 リニア交渉術?JR社長一転柔軟姿勢
4代の知事が30年以上にわたって整備を求めてきた静岡空港の東海道新幹線新駅構想がついに動き出すのか、県内関係者の注目度が高まっている。鈴木康友知事と5日に初対面したJR東海の丹羽俊介社長が「考えを受け止めながら対話する」と柔軟姿勢に転じたためだ。ただ、大井川流域にはリニア中央新幹線工事に伴う環境問題解決の交渉材料にされるのではとの警戒感も強く、協議の開始は容易でないとの見方もある。
「ミカン箱みたいな駅なんて造れるわけがない」 JRの山田佳臣社長(在任2010~14年)は13年12月の定例記者会見で県の新駅構想をこき下ろした。その後の柘植康英社長(14~18年)と金子慎社長(18~23年)も、空港の搭乗者数や周辺人口が少なく十分な利用者が見込めないことや、新幹線の輸送スピードが落ちて利便性を損なうことなどを理由に、整備は難しいと一貫して“塩対応”だった。
23年4月に就任した丹羽社長も同年6月の定例記者会見では歴代の社長と同様に新駅に否定的な考えを示していたが、鈴木知事との面会では一転。リニア沿線地域でありながら、停車駅がない本県のメリットの一つとして空港新駅設置を求めた知事に呼応してみせた。 県は現在地を空港建設予定地に決めた1987年以降、東海道新幹線が空港の真下を通る立地を生かし空港新駅の設置可能性調査や要望活動を始めた。川勝平太知事時代の2014~19年度には県予算に計4750万円の調査費を計上。空港直下への新駅設置は技術的に可能で、リニア開業後、「のぞみ」の運行本数が1時間あたり5本に減れば、新駅に「こだま」が1時間に3本停車しても新幹線の高速性は維持されるとの調査結果をまとめた。 ただ、地元で新駅の建設機運が高まっているとは言いがたい。染谷絹代島田市長は23年6月の定例記者会見で「大井川流域の10市町で話し合ったことはなく、地域振興策として望んだこともない」と述べ、県の前のめりな姿勢をけん制した。 大井川流域間でも、空港と約15キロしか離れていない位置に新幹線駅がある掛川市と、鉄道駅がなくまちづくり効果への期待が高い牧之原市では新駅を求める温度差が大きい。県関係者は「流域市町は空港新駅の話を持ち出すと意見がばらばらになる」と指摘し、リニア工事を巡る環境問題が解決するまでは協議の俎上(そじょう)に載せるべきではないとの認識を示す。 鈴木知事は11日の定例記者会見で、リニア沿線都府県で構成する期成同盟会が空港新駅整備を国に要望したことについて「大変ありがたい」としつつ、「じっくりと議論を深めたい」と長期的な課題として取り組む姿勢を強調した。