2024年のアカデミー賞美術賞『哀れなるものたち』舞台美術の魅力を解剖
映画『哀れなるものたち(Poor Things)』は、観客を驚かせながらも、もっと観たいと思わせる余韻を残した。この素晴らしい映画は、全く新しい視点でスクリーンに映し出され、観客を偏屈な科学者のロンドンにある邸宅からリスボンの興味深い街並み、堂々たる客船、アレクサンドリアのホテルとスラム街、そしてパリの売春宿へと案内する。おとぎ話や夢の世界のようなレンズを通して見た現実の描写は、さまざまなテクニックの組み合わせによって生み出されており、2024年のアカデミー賞で美術賞を受賞するにふさわしい作品だ。この作品が美術賞に輝いた理由を読み解いてみよう! US版「ハウスビューティフル」より。
原作は同名のアラスター・グレイ著『哀れなるものたち(Poor Things)』で、この物語は映画の非日常的な世界観にぴったりと合致する。物語は、赤ん坊の脳で蘇生したエマ・ストーンが演じる女性ベラ・バクスターを中心に展開。ヨルゴス・ランティモス監督は、ベラが住む曖昧な時代設定を持つ完全な世界を作り上げたいと考え、プロダクションデザイナーのジェームズ・プライスとショーナ・ヒース、装飾を担当するスーザ・ミハレクを起用し、全てをゼロから作り上げた。
ほぼ全てのセットは、ブダペストにあるオリジオ・スタジオのサウンドステージで建設され、リスボンの街並みは、ヨーロッパで最大のサウンドステージを持つブダペストのコルダ・スタジオで、複合セットとして構築された。つまり、すべてがつながっているので、まるで実際の場所のように歩き回ることができるのだ。
セット全体を通して、デザインは人体を彷彿させる有機的なフォルムと自然界に根ざした形が特徴的だ。ウィレム・デフォー演じるゴドウィン・バクスターが住むロンドンの家は、サーモンピンクで映画の基盤となる場所だ。この家には、ヒースが「滴り落ちるような、溶け出したような肉」と表現する歪な階段があり、鮮やかな赤いドアへと続いている。