タイに次いでマレーシアも……相次ぐ「BRICS加盟」申請が意味する「ドル覇権の落日」
ドルの「武器化」に世界が反発
現在では、政治的な意味合いを色濃くしているBRICSだが、当初は「経済的問題」を解決するための組織であった。 BRICSの設立には2008年のリーマンショックが大きく関係している。リーマンショックで日米を含む多くの国々が打撃を受けたが、実のところBRICS諸国を始めとする国々の被害の方が大きかったかもしれない(ただし、中国のダメージは比較的少なかった)。 ドルを基軸とするG7中心の世界経済体制に疑問が投げかけられたのは当然である。したがって、2009年にBRICSが設立(当初4カ国。2011年に南アフリカが加入)された時にも「ついに世界の覇権移動が始まった…!『ジャイアン』アメリカを恐れず、いまBRICSが急速に拡大している『衝撃の理由』」3ページ目「アメリカの世界権力の源泉『金融システム』」で述べたように、「世界的な金融システムの再編や欧米主導の国際金融機関における発言力の強化」が求められた。 だが、米国がこのBRICSの要望に応えた形跡は無い。むしろ、「ドルの武器化」によって世界の覇権を維持しようとしたのだ。イランを始めとする国々に対する「経済制裁」も、ドルが国際決済通貨であり、世界経済がドルを基軸に動いているからこそ有効に機能する。 ところがその「ドルの武器化」に対して、多くの国々が(ひそかに)抵抗したため、武器としてのドルの影響力に陰りが出てきている。 その結果、ウクライナ侵攻に対するロシアへの経済制裁は、2022年6月24日公開「ナポレオン大陸封鎖令の大ブーメランに学ぶ経済制裁で自滅する歴史」で述べたように、むしろ西ヨーロッパ諸国を疲弊させる結果となった。 このブーメランは直接的には「資源」問題である。しかし、後述するように原油の決済通貨が「ドル」であるという原則が崩れ、ロシアなどがドル以外の通貨でエネルギーを販売することが可能になってきているという「通貨問題」でもあるのだ。 つまり、BRICSの当初の(経済的)目的を突き詰めれば「ドルを使わない国際決済」である。実際、IDE JETRO(アジア経済研究所)「(グローバルサウスと世界)第5回 BRICSに中東・アフリカ諸国が加わることの意味――エジプトを事例に考える」の中で「2022年6月、ロシアのプーチン大統領は、BRICS加盟国の通貨バスケットに基づく新たな準備通貨を開発すると発表した。 それに先立つ2014年には、BRICS加盟国によって上海を本部とする『新開発銀行(NDB)』が設立されている。NDBは、現地通貨によってインフラ・プロジェクトの資金調達を行うことを目的に、世界銀行に代わるグローバルサウスのための銀行として設立された。このNDBには現在、エジプト、バングラデシュ、UAEといったBRICS以外のメンバーも加盟しており、ウルグアイも加盟を申請中だ」と述べられているように、「国際決済の『非ドル化』」に向けた動きが着々と進んでいる。