【中村憲剛×田中ウルヴェ京】指導者や親は子どもたちに“感情のおなら”を出させてあげることが大切
前編
中村憲剛さんの対談連載「思考のパス交換」、今回のゲストは田中ウルヴェ京さん。ソウル五輪シンクロナイズドスイミング(現:アーティスティックスイミング)デュエットで銅メダルを獲得し、指導者を経て現在はスポーツ心理学者、また報道番組コメンテーターやラジオパーソナリティなど多方面で活躍されています。どのように選手たちの才能を伸ばしていけばいいか、指導において大切にしたほうがいいのは何か――。昨年12月に、国内最高位となるJFA(日本サッカー協会)公認S級ライセンスの国内講習を終え指導者の道を進む中村さんと、日・米・仏のシンクロ代表チームコーチを10年間務めたウルヴェさんが“指導論”を熱く語り合った。(取材・構成/二宮寿朗 撮影/熊谷 貫) 【画像】わかりやすく、かつ面白い話をエネルギッシュに展開するウルヴェさん
指導者こそ自分の感情や考え方を知る必要がある
中村 京さんとの最初の出会いは、昨年、JFA(日本サッカー協会)公認S級ライセンス講習で講師として来られたとき。川崎フロンターレで後輩だった武岡優斗が京さんと知り合いであることは彼のSNSを通じて知っていたので、講義のときに挨拶して。優斗に「講義がメチャメチャ、タメになった」と伝えたら、そこから3人のLINEグループをつくって、いろいろとやり取りさせてもらうようになったんですよね。 ウルヴェ 憲剛さんのことは、私のことを“東京のおかん”と言ってくる優斗から事前にいろいろと聞いていました。「すごく尊敬している人だ」とも。憲剛さんのことを、さすがなだなって思ったのはLINEグループで、ちょっと真面目な質問をしたことがあって。憲剛さんは、どう答えるのかなって3段階くらいの答えを想定していたら、その上を超えていくような回答をいただいて。 中村 そんなことありましたっけ? ウルヴェ 私も実は具体的な内容までは思い出せないんだけど(笑)。急に深いLINEのやりとりになったことはよく覚えています。「憲剛さんって凄いな」って。 中村 京さんの話は本当に興味深くて。講義のときも、川崎フロンターレや日本代表で勝っている時期、逆に勝てない時期のメンタルとか、気持ちの持ちようを振り返る時間にもなりました。僕自身、我流でのメンタルコントロールでしたし、出てくる感情を否定するんじゃなくて受け入れたうえで何をすべきかって思いながらやってきました。これは(ストレスに対処する)「コーピング」って言うんだなとか自分のなかで答え合わせしつつ拝聴してました。現役のころからもう少し、こういう観点があったらさらに良かったなって感じましたね。 ウルヴェ 指導者になる方は、まず自分の感情や考え方を知っておいたほうがいいんです。選手を育てるためだけでなく、自分自身の心と体を管理していく必要がありますから。そのために(講義の)前半は現役時代のことを振り返ってみましょう、と。そして後半は、選手たちのメンタルをどのように見ていくかについて、でした。人それぞれ、やる気の種類は違うし、コミュニケーションの取り方も違う。自分のことじゃないから余計に難しい。だから、「ちゃんと悩む」というのが実は指導者にとっても重要なんですよね。