雅子さまの「いい人生だったと振り返れるように」を思い出す 英王室「完璧なおもてなし」の温かさ
天皇、皇后両陛下は6月22日から英国を公式訪問された。英王室の「完璧なおもてなし」から、ジャーナリストの多賀幹子氏が心の交流を読み解く。 【写真】留学していた部屋の窓から手を振る天皇陛下と雅子さま * * * イギリス王室のおもてなしは完璧だったのではないだろうか。 6月25日、天皇、皇后両陛下の滞在先のホテルにウィリアム皇太子(42)が迎えに来たとき、皇太子は赤いネクタイを締め胸には白いポケットチーフを挿していた。 歓迎式典が行われるホース・ガーズ・パレードでは、チャールズ国王(75)とカミラ王妃(76)が車の到着を待っていた。背景の豪華な花飾りは白い菊と赤いバラ。国王の胸のポケットチーフは淡いピンク色で、王妃のブローチは桜のデザインだった。「君が代」に続いて流れた曲は、「さくらさくら」である。 相手国へのリスペクトは具体的に色や音で表現された。 さらに晩餐会でのチャールズ国王のスピーチの冒頭は日本語での「オカエリナサイ(お帰りなさい)」だった。天皇、皇后両陛下が共にイギリスに留学した経験があることを踏まえたのだろう。天皇陛下が「英王室はまるで家族のように接してくれた」との言葉へのお返しだったのかもしれない。 国王は、ポケモン、ハローキティ、ジブリ作品など日本文化についても触れた。国王がポケモンの名セリフ「全部ゲットだぜ!」を英語で口にしたとき、ウィリアム皇太子が思わず笑顔になった。国王は、皇太子の3人の子どもからこのセリフを教えてもらったに違いないとメディアは書いた。ジョージ王子(10)、シャーロット王女(9)、ルイ王子(6)の3人の孫は、国王とはやり言葉やおもちゃを共有する仲良しなのだ。かつては母ダイアナ妃を悲しませ苦しめた父を恨んだ皇太子だったが、「父を理解する“大人”になった」との声が上がる。
天皇、皇后両陛下と国王、王妃は贈り物を交換した。国王からはスコッチウイスキーがペアのタンブラーと共に、王妃からは扇子が贈られた。天皇陛下からは国王へは輪島塗の漆器、雅子さまから王妃へは佐賀錦のバッグがプレゼントされた。佐賀錦は佐賀の鍋島藩から生まれたといわれる伝統的な高級工芸品。カミラ王妃は晩餐会のときにさっそくバッグを手にした。雅子さまはすぐに気が付き、話が弾んだそうだ。 国賓としての3日間を終えた天皇、皇后両陛下は、国王、王妃とバッキンガム宮殿の玄関で別れを惜しんだ。その様子は「まるで旧友のよう」とイギリスのメディアから描写されたが、チャールズ国王もカミラ王妃も、雅子さまの両肘をとって励ますようなしぐさを見せた。 雅子さまは国王、王妃にチークキスをして別れた。 天皇、皇后両陛下を乗せた車が走り去るまで手を振り続けたチャールズ国王が、背を向けて宮殿への階段を上るとき、カミラ王妃が国王の背中をポンポンと軽くたたいたのが印象的だった。国王の寂しさを察して、慰めたかのようだった。 イギリス滞在最終日の28日、天皇、皇后両陛下は、かつて学んだオックスフォード大学に足を運んだ。天皇陛下はマートンカレッジ、雅子さまはベリオールカレッジに留学していたが、それぞれの母校を一緒に訪ね、街を散策した。 雅子さまは20代の学びの地で何を思われただろうか。 1993年の婚約会見では、「殿下にお幸せになっていただけるように、そして私自身もいい人生だったと振り返れるように努力したい」との印象的な言葉があった。それから30年以上が経った。オックスフォードを再訪して、この言葉をふと感慨深く思い出されたかもしれない。