[ハリウッド・メディア通信] アカデミー賞ノミネーション入りしたNetflixで今すぐ視聴できる伝記映画のオンパレード !
アカデミー賞主演男優賞ノミネートの『ラスティン:ワシントンの「あの日」を作った男』
アカデミー賞で主演男優賞の1部門だけノミネートされているのが『ラスティン:ワシントンの「あの日」を作った男』の主演男優コールマン・ドミンゴ。昨年、コールマン・ドミンゴは全米映画放送批評家協会 (CCA) の映画とテレビの祭典において、マイノリティーのタレントに送られる賞を受賞。 映画では、1963年、マーティン・ルーサー・キングが演説集会を行った「ワシントン大行進」を仕切った黒人活動家、バイヤード・ラスティンの情熱が描かれている。リーダーとしての手腕とカリスマをもちながらも、ゲイであることで黒人社会からも差別された背景の中、公民権運動が成功するまでを、あらゆる角度から描いていて興味深い。コールマン・ドミンゴは、ダニエル・ブルックスが、アカデミー賞助演女優賞にノミネートされているミュージカル映画『カラーパープル』にも出演している。 この映画で惜しくも、アカデミー賞オリジナルソングにノミネートされなかったのが、レニー・クラヴィッツ作曲の「ロード・トゥ・フリーダム」。 90年代に数々のヒット曲をとばし、『ハンガー・ゲーム』シリーズにも俳優として出演するなど、そのレッドカーペットでのファッションにも定評があるミュージシャンの歌曲はなかなか味がある。
アカデミー賞2部門ノミネートの『雪山の絆』
米俳優イーサン・ホーク主演のアメリカ映画『生きてこそ』(1993)を覚えている人なら、この映画が同じ実話を元にしていることを思い出すかもしれない。1972年10月、ウルグアイのラグビーチームとその家族や知人が乗った旅客機がチリで行われる試合に向かう途中で墜落。アンデス山脈高度約4200メートル地点で通信不能の中、29名の生存者が確認される。彼らは修理したラジオで、操作が打ち切られたことを知っても、零下40度の中で決死隊を編成。瀕死の状態の中、最後はそのうちの16名が生還するという驚愕の実話を元にした映画である。 今回のプロダクションの製作国はスペイン、アメリカ、ウルグアイ、チリ。2時間25分という長編映画を手掛けたのが、J.Aバヨナ。スペイン出身の気鋭監督は、ギレルモ・デル・トロ監督が製作した『永遠のこどもたち』(2007)で監督デビュー。2004年のスマトラ島沖地震を描いた『インポッシブル』(2012)や、『怪物はささやく』(2016)などで定評がある。ハリウッド大作『ジュラシック・ワールド 炎の王国』(2018)の監督も務めており、着実に足固めをしてきた未来のハリウッドを担う若手監督である。 もともとスペイン語作品に戻って、この題材を映画にしたいと10年間活動してきた監督の情熱は、『インポッシブル』でも試みたように、実在の生存者から理解を得て、72日間のサバイバル中の惨事や最後の生還のドラマを忠実に真摯に描けるかにかかっていたという。多数の生命が失われた大惨事の中で、不可能を可能にした人間の粘りは、生存者パブロ・ビエルチの原作に描かれており、その本が監督の心をうごかしたそうだ。 実際に何が起こったのかではなく、16名の心情に重きをおくことで、『生きてこそ』とは全く違う視点の映画になると確信したのだそうだ。原作に加え、生存者全員に行った100時間以上におよぶインタビューを記録し、俳優もその生存者や、亡くなった家族から話を聞き、セットでも何度も脚本を書き直しながら、この映画を完成させたという。映画はアカデミー国際長編映画賞とメイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされているが、撮影ペドロ・ルケ・ブリオッツォの映像美と、作曲家マイケル・ジアッキノの美しい旋律もアカデミー賞ノミネーションに反映されてほしかった要素である。
文 / 宮国訪香子