“真面目すぎる”のがコンプレックス 歌舞伎俳優・中村鶴松が語る展望 「幅広く立役も演じていきたい」
カラオケで黙々とせりふの練習が裏目に
――『鏡獅子』のような大役で、ですか? ずっと憧れていた役ですから、現実となるまでにいろいろと考えることが多かったからかもしれません。それから踊りだからという部分も大きいと思います。稽古をすればした分だけ自分に返ってくるものがありますので。 ――黙々とひとりで努力できる要素があるのは、アスリートのトレーニングに通じますね。 はい。ただそれがいい結果につながるとは限らないということも思い知りました。自分は妙に真面目に考えすぎるところがあってそれがコンプレックスなんです。『豊志賀の死』の新吉の時はひとりでカラオケに行ってせりふの稽古していたのですが、それが裏目に出ました。掛け合いのせりふの多い、落語をもとにした芝居ですから相手とのキャッチボールが大切。準備したものを提出するだけではどうにもならない、ということを実感しました。
「自分の武器となるものを見つけて磨いていきたい」
――新吉も抜擢でしたよね。抜擢といえば『天守物語』の亀姫です。泉鏡花原作の幻想的な世界を描いた物語で演じたのは異界のお姫様、これは難役だったでしょうね。 もう本当にどうしたらいいのかわからなくて……。最初、全然できなかったんです。いろいろな方の映像を拝見して勉強しても、自分の中でなんかこう腑に落ちなくて。ところが(主役の富姫を何度も演じている演出の坂東)玉三郎さんが、私服のまま1分くらい実演してくださった時に「これだ!」と思いました。言葉で説明するのは難しいのですが、一瞬にして行くべき道が見えました。 ――映像とリアルの違いでしょうか。目指すべき姿が現実となって目に前に立ち現れたのですね。人から人へと伝承されてきた伝統芸能の奥深さを感じます。最後に今後の方向性やどういう俳優さんを目指したいと思われているのか教えてください。 自分は背もそんなに高くないですし娘役をいただく機会が今のところは多いのですが、立役にもチャレンジしていきたいと思っています。実際、半年くらい前に勘九郎の兄にその意思を告げました。いろいろな役を経験し、それらを通して自分の武器となるものを見つけそれを磨いていきたいと思います。今まさにそれを探っているところです。 勘三郎さんの十三回忌追善公演はこの後も各地で続き、3月は「名古屋平成中村座 同朋高校公演」が行われます。鶴松さんは『弁天娘女男白浪』の赤星十三郎、『義経千本桜 川連法眼館』の亀井六郎、『二人藤娘』の藤の精を演じ、立役と女方それぞれで異なる役どころを演じます。
「もっと大きな役者になると信じている」(勘九郎さん)
最後に勘九郎さんからいただいたメッセージをお届けいたします。 「父がいなくなってしまったのは本当に残念ですが、僕たち兄弟以上に悲しみと共に悔しさや戸惑いを感じているのは鶴松かもしれません。本格的に役を教われる年齢に差し掛かった時期のことでしたから。そんな状況の中、自主公演『鶴明会』を企画して『春興鏡獅子』を勤めるなど努力しています。『野崎村』のお光という経験を経て、これからもっともっと大きな役者になって欲しいですし、そうなってくれると信じています」
清水まり