痛みや恐怖は「瞑想」で本当に弱まる、熱した探針をふくらはぎに当てた実験の驚きの結果
伝統的な瞑想やマインドフルネスのストレス対策での効果が明らかになってきた
瞑想では、今この瞬間に意識を集中する。瞑想はいくつかの形があるものの、世界中で何千年も宗教的な伝統として実践されてきた。最も深いレベルでは、宗教的な啓示を得るための修行だが、健康法としても効果があると昔から信じられてきた。この30年余りの研究で、そうした考えに科学的根拠があることが明らかになってきた。 【関連画像】癒される! ナショジオのスマホ壁紙集 米マサチューセッツ総合病院の神経科学者サラ・ラザー率いるチームは、ストレスと同様の症状をもたらす不安を減らす瞑想の効果を調べ、そのなかで、ストレスを減らす二つのプログラムの効果を比較した。プログラムの一つは、自分の思考と感情に45分間意識を集中する「マインドフルネス」という認知療法に基づき、42人が物事をありのままに観察する瞑想法とヨガを8週間学んだ。もう一つのプログラムでは、25人が軽いエアロビクスを行った。 その後、両グループに恐怖の条件づけをした。被験者に青、緑、黄色のランプが光る画像を見せながら、そのうちの2色で軽度の電気ショックを与える。その後に電気ショックなしで同じ画像を見せ、光の色に伴う「恐怖の記憶」が消され、「安全の記憶」が刻まれるようにする。 この実験で、マインドフルネスに基づくプログラムを受けたグループの方が恐怖反応を克服しやすいことがわかった。ラザーらは被験者の脳をスキャンし、マインドフルネスを学んだことで「安全の記憶」を処理する方法が変わり、光刺激はもう脅威ではないと、とっさに想起する能力が高まったと結論づけた。
なぜ瞑想で痛みが緩和されるのか
一方、米カリフォルニア大学サンディエゴ校の神経科学者であるフェイデル・ザイダンは、マインドフルネスが痛みを緩和する仕組みを調べている。最近の実験では、瞑想中に痛み刺激を与えてfMRIで脳の活動を調べ、瞑想によって不快感がどう軽減されるかを調べた。 被験者は2群に分けられ、一つのグループはマインドフルネス瞑想のトレーニングを受ける。もう一つのグループ(対照群)には、自然をテーマにした18世紀の単調な書籍『セルボーンの博物誌』の朗読を聞かせる。そして、まず被験者のふくらはぎに熱した探針を当て、熱による痛みを断続的に合計100秒間与えて、痛みの程度を評価してもらう(耐えがたければ、いつでも脚を離して構わない)。その後、マインドフルネスを学んだグループには瞑想するよう指示し、対照群にはただ目を閉じて休むよう指示して、同じように痛み刺激を与える。 その結果、瞑想を行ったグループは痛みが減ったと報告した。「瞑想中は痛みの強さと不快感が33%低下したのですが、対照群が訴える痛みの強さはむしろ上がりました」とザイダンは言う。 なぜ瞑想で痛みが緩和されたのか。ザイダンらは瞑想中の脳をスキャンして、その答えを見いだした。瞑想中は自意識に関わる神経ネットワークの活動が低下するために、痛みが和らぐことがわかったのだ。 最も大幅な活動低下が見られたのは、自省と自己評価に重要な役割を果たす神経中枢である内側前頭前皮質だった。「瞑想中は自分を評価する脳の働きが抑えられます」とザイダンは説明する。「その働きが低下すればするほど、大きな鎮痛効果があり、痛みが大幅に軽減されるのです」。 その場合も脳は痛みの信号を受信しているが、「『これは自分の痛みだ』と訴える神経ネットワークにはその信号が届かないのです」。要するに、マインドフルネスは苦痛を自分と切り離すことに役立つと考えられる。 ※ナショナル ジオグラフィック日本版6月号特集「ストレス研究最前線」より抜粋。
文=ユディジット・バタチャルジー(サイエンスライター)