気候変動を体感したドキュメンタリー映画監督 海南友子さんが伝えたいこと
── 実際に現地に足を運んで撮影されてきたなかで、特に印象的だった国やエピソードはありますか? 気候変動について取材を始める前は、逃げ惑う人々や苦しんでいる人々がいるのではないかと予想していたのですが、実際は3年間にわたる取材のなかで、そういった光景には一度も出合いませんでした。
例えばベネチアでは、一年に何度も膝まで水位が上がってしまったり、レストランが水没して使えなくなるなど、大変なことが日常的に起きていました。でも、島の人々はそれが日常だから仕方ないと受け入れていたんです。この現実を目の当たりにした時、それがリアルな気候変動の怖さなんだと強く感じました。それはツバル、ベネチア、シシュマレフのどこを訪れても、同じようなことを感じましたね。 さらに、ベネチア本島に定住する人は数十年前と比べて大幅に減少しているということも耳にしました。それでも、観光地として経済活動がおこなわれている。現地の人はもちろん困っているし、緊急時に備えてはいるけれど、人間の力だけでは対処できない自然の影響を受け入れ、変化に対応せざるを得ないという状況でした。これは島に限った問題ではなく、今後海岸線に近い地域でも同様の問題が起きる可能性があるのではないかと危機感をもっています。
気候危機の影響は、身近な場所にも及んでいる
2022年に、アメリカのコロンビア大学に客員研究員として留学したのですが、そこで温暖化に対する2つのアプローチについて学ぶ機会がありました。1つは「Mitigation(ミティゲーション=緩和)」です。これは、CO2などの温室効果ガスの排出量を削減し、気候変動を抑制するための取り組みを指しますが、これだけではすでに追いつかなくなっているのが現状です。そこで重要となるのが、「Adaptation(アダプテーション=適応)」。つまり、変動してしまった後の環境をいかに受け入れ、適応していくかという時代に入っているということです。先ほどお話ししたような島がその一例ですが、これは将来私たちが直面する世界なのかもしれません。 この映画は国内外の映画館で上映されましたが、特に沖縄や北海道の人々からは、ツバルやシシュマレフの問題を身近に感じるという声が多く寄せられました。「海岸線が後退している」とか「昔は子どもたちが氷河の上で遊んでいたけど、今はできなくなった」という話をたくさん耳にして、映画に出てくる島々で起きていることは、日本国内でも、地域によっては既に起きていることでもあるのだと感じましたね。