作詞家・小竹正人は想う。人に対する審美眼は若いうちに養うべき
さまざまな経験、体験をしてきた作詞家 小竹正人さんのGINGER WEB連載。豊富なキャリアを通して、今だからわかったこと、気付いたこと、そして身の回りに起きた出来事をここだけに綴っていきます。【連載/小竹正人の『泥の舟を漕いできました』】
「相性」
何十年も作詞をしてきて、気づいたことがある。 今まで数多のアーティストに歌詞を書かせてもらってきたが、作詞家と歌い手って絶対的に「相性」の良し悪しがある。なんてったって私はクセの強い昭和歌謡みたいな歌詞を書きがちなので、声に暗さや哀愁がある人のほうが断然相性が合う。そういうアーティストが私の歌詞を歌ってくれると、つくづく感動してつくづく満足感で心が満たされる。 作曲家との相性も大事だ。曲の好き嫌いではなく、相性。相性がいい作曲家の方だと、自分でも驚くほど、ときには1時間弱でスラスラとフルコーラスの作詞ができたりする。 仕事でもプライベートでも、生きていくうえで、人との相性ってものすごく大切だ。 友人、恋人、先輩、後輩、上司、部下、家族(ペット含む)…、相性のいい誰かと過ごす時間のなんとも豊かなことか。そんでもって、相性のよくない人と過ごす時間のなんとも苦痛なことか。 これを読んでいる方は、ほとんどが私より若い世代の方だと思うが、そんな皆さんに朗報です。 若いときに、相性の悪い人との人間関係にうんざりしている人も、年齢を重ねるとともに相性の合う人が徐々に増えます。相性のよくない人との距離の取り方がわかってくるからです。 私は声を大にして言いたい。 まだ若いうち(40代くらいまでかなあ)に、何事においても相性のいい人をしっかり見極める術を身につけてください。 あまりにも歳をとると、何もかも面倒で、相性なんてどうでもよくなるくらい頑固になって、洞察力が衰えるからね。 ただし、初対面でそれを決めてはいけません。 最初は苦手意識を持っていても、何度か会って、ある日突然「あれっ、この人って実は相性がすごく合う」と気づかされるパターンもあるから。 私は、苦手な人こそ1対1で対峙してみるべきだと思っています。人間の真の性格って1対1のときがよりあらわになる。 逆も然りです。最初はすごく相性が合うと思った人も、深く付き合うと全然違ったりする場合もありますね。 だからこそ、人に対する審美眼を若いうちに、特に20代30代で養ってください。 偉そうに書いているけど、ホント、50歳を過ぎてから人間関係における相性の重要性にやたらとハッとすることが多いので。 最後に。私は夏という季節と相性が悪い。理由は高温多湿が死ぬほど嫌いだから。 10年くらい前に、「♪夏は嫌よ~」という歌い出しの歌詞を書いたら、スタッフたちから「それはちょっと…。夏が好きな人は多いから」とダメ出しをくらい、「♪夏が来るわ~」に書き直した過去があります。 昔は、冬のラブバラードへの歌詞の依頼が圧倒的に多かった私。久しぶりに夏のバラードの歌詞を書いたらいきなりのダメ出し。ほら、やっぱり私は夏との相性がよくない。「♪夏は嫌よ~」なのである。