『ぼっち・ざ・ろっく!』vs『けいおん!』13年で何が変わった? 超名作バンドアニメを徹底比較
■ライブシーンが超進化! 手書きの革命vsこだわりまくりモーションキャプチャー
続いて、バンドアニメの要ともいえるライブシーンの描き方について見ていきたい。『けいおん!』は、『涼宮ハルヒの憂鬱』や『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』などを手掛けた京都アニメーションが製作。2000年代当時、手書きアニメーションでキャラクターが楽器を演奏するなど不可能に近いとされていた中で、多数のオリジナルソングを活き活きと演奏。意地悪に見れば、工数のかかる手元のカットなどはなるべく少なくしているようにも思えるが、当時のアニメシーンからすれば革命的な名場面を量産したことは間違いない。アニメらしい表現やキャラクターの表情の豊かさといった点では『けいおん!』のライブシーンは今なお語り継がれるものだ。 2022年の『ぼざろ』は『アイドルマスター』シリーズや『四月は君の嘘』で知られるCloverWorks製作。こちらはモーションキャプシャーを使用してライブシーンを描いているため、キャラそれぞれの動きが独立している印象だ。手元など複雑な動きをする個所も見事に描き出している。音響にも非常にこだわっているようで、シーンに合わせてわざとズレた演奏を収録したり、弦の切れたギターを使用したりすることで執念すら感じるほどに素晴らしいライブシーンを数々生み出した。 ■『けいおん!』『ぼざろ』が社会に与えたものとは 緩いガールズトークと、それまで不可能とされていた高レベルのバンドシーンの実現で爆発的な人気を博した『けいおん!』。放送当時中学生だった筆者は、高校に入学し普通にバンドに憧れて軽音楽部に入ったら、周りには『けいおん!』ファンだらけで驚いた経験がある。当時、『けいおん!』メンバーとコラボした音楽機材なども多数発売され、バンドに興味のなかった学生たちを音楽の道へと導くほど、多大な影響力を持っていた。まさに“社会現象”と言って過言ないだろう。 一方、『ぼざろ』はというと“社会現象”とまではいっていない印象ではあるものの、NetflixやAmazon Prime Videoなどで配信もされていたことで、じわじわと国内外で人気が広がりファンを獲得していった。 また『ぼざろ』は各話タイトルが人気バンド・ASIAN KUNG‐FU GENERATION(通称「アジカン」)の楽曲タイトルに毎度なぞらえていたり、「結束バンド」メンバーの苗字がアジカンメンバーと同じだったりといった邦ロックファンをくすぐる仕掛けも。劇場総集編後編のサブタイトル「Re:Re:」もアジカンの人気曲名と同じだ。アジカン以外にも、邦ロックファンにはピンとくる小ネタが満載なので、探してみてほしい。 筆者が『ぼざろ』の影響を感じたのは、アニメ放送後にアジカンのライブを訪れたとき。集まったファンたちの中に、ぼっちのぬいぐるみや『ぼざろ』の缶バッジを付けている層を少なからず発見したのだ。『ぼざろ』はアニメファンを邦ロックに引きこんだし、邦ロックファンにアニメのパワーを知らしめたかもしれない。『ぼざろ』によって新たな世界を開いた人が確実にいる。これは、実にすごいことではないだろうか。 アニメファン、そしてそれ以外の層まで広く支持されているバンドアニメ、『けいおん!』と『ぼっち・ざ・ろっく!』。2つの作品にはその時代の背景が少なからず反映されていて、それぞれが“音楽”への間口を開いたことは間違いない。続編も期待される『ぼざろ』はこれからどんな世界を見せてくれるのか、そして次の時代にきっとまた新たに生まれるであろうバンドアニメにも思いを馳せながら、私たちは凍てつく世界を転がるように走り出すのである。(文・小島萌寧)