当局関係者に徹底取材…水原一平氏が問われる可能性のある「具体的な罪名」と「捜査上の4つの論点」
米大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手の通訳、水原一平氏が違法なギャンブルに手を染めていたことが明らかになり、球団から解雇処分となった。大谷選手の投打二刀流を支えてきた水原氏だったが、通訳とギャンブラーという隠れた二刀流が発覚し大騒動になっている。日本の刑法を適用すれば水原氏についてはまずは賭博行為が問題になりそうだ。水原氏の約450万ドル、日本円にして約6億8000万円の借金を肩代わりした大谷選手は法律上の処罰対象になるのか。警察当局の捜査幹部たちが読み解いた。 【最新近影】すごい…!幹部たちに見送られ高級車に乗り込む六代目・司忍組長「オーラあふれる」肉薄撮 米スポーツ専門局ESPNによると、水原氏は’21年ごろからスポーツ賭博を始めて、これまでに借金約6億8000万円を抱え込むことになった。だが、借金の返済は大谷選手の銀行口座から行われており、米カリフォルニア州のブックメーカー(賭け屋)側に全額が送金されていた。水原氏は19日に取材に応じて、昨年、大谷選手に賭博による借金の返済を依頼。大谷選手は不満そうながら肩代わりを渋々、承諾したという。 『第1の論点』として、捜査幹部は「日本の法律の適用を前提として」と前置きして次のように解説する。 「まずは、違法なギャンブルによる犯罪収益を収受したとして賭博の胴元の方が刑事罰の対象となる可能性がある。このためには、前提として賭博行為の事実を特定する必要がある。大谷選手が自らの意志として送金し、知人の借金を代わりに弁済したということであれば、すぐに刑事罰の対象となることはないのでは。大谷選手には事情を聴く必要があるかもしれないが、参考人としてという程度となりそうだ」 しかし、大谷選手の代理人の弁護士が「大規模な窃盗被害に遭っている」との声明を表明すると、水原氏が20日になって再び取材に応じ、前日の説明を翻した。「大谷選手はギャンブルや借金のことについては何も知らず、借金の肩代わりとしての送金もしていない」と主張。大手は関与していないと強調した。 ここに『第2の論点』がある。前出の捜査幹部が続ける。 「大谷選手が関与していないことになれば、代理人の弁護士の主張の通り、窃盗の被害に遭ったことになる。送金は実行されているため、被害者は大谷選手で、窃盗を行ったのは水原氏となる。大谷選手の銀行口座から何かしらの方法で盗み出したということになる。ただ、どのような方法でということがポイントとなる」 別の捜査幹部は、「業務上横領罪の可能性がある」と指摘する。 「今の段階では情報が少ないので分からないことが多いが、水原氏は大谷選手の通訳だけでなく練習相手や運転手なども務め、公私ともに日常生活をサポートしている。大谷選手の銀行口座の管理まで任されているのであれば、それを悪用し勝手に送金したとなると、法律では『業務上、自己の占有する他人の物を横領した場合』にあたり業務上横領罪に問われる可能性がある」 銀行口座を操作する何かしらのパスワードのようなものを不正に入手して送金した場合には、電子計算機使用詐欺罪に問われる可能性があるとの指摘もある。 米国ではスポーツの勝敗をめぐる賭博が多くの州では合法的に行われている。しかし、水原氏のギャンブルが発覚したカリフォルニア州では合法ではなく違法との認定を受ける。水原氏が借金することになったブックメーカーは捜査対象だった。そこで大谷選手側からの送金が捜査で判明し、今回の騒動につながった。水原氏はESPNに対し「違法だとは知らなかった」と弁明しているが、賭博行為は認めている。 違法とは知らなかったとの弁明が『第3の論点』。国内では警察による闇カジノなどが定期的に摘発されている。この場合は、警察が現場に踏み込んで店側を賭博開丁図利罪で、客側を単純賭博罪で現行犯逮捕するケースが多い。 第1の論点について解説した捜査幹部は、 「国内で賭博の現場で摘発が行われた場合、店側の店長や従業員はもちろん、客も現行犯で逮捕する。ただ、多くは釈放して在宅捜査のうえ書類送検し、罰金刑という結論になるのが一般的だ」 と述べる。このため賭博を認めているのであれば、水原氏は刑事罰の対象になる。水原氏は米国育ちのため、「知らなかった」は通用しないだろう。 大谷選手側は「大規模な窃盗被害に遭っている」と主張している。窃盗被害の捜査はどうなるかが『第4の論点』となる。2人は公私ともに過ごす時間が長く、友好関係にある。前出の捜査幹部は、「大谷選手側は被害届を出さないのではないか」とも推測する。 親友を警察に突き出すのが忍びないのか、それとも大谷選手の肩代わりなどの関与はなかったとの主張を通すために被害に遭ったとの声明を出しつつ、被害届は出さずに事態の鎮静化を求めるのか。事態の推移は今後を待たねばならない。 今年2月、大谷選手と水原氏はドジャースのファンサービスのためのトークショーに仲良く揃って出席した。司会者から大谷選手が水原氏との関係を聞かれると、「ビジネスの関係。もう友達ではないですけど。割り切って付き合っています」と回答。この時点ではすでに巨額な借金の返済は済んでいた。 水原氏が英語で「僕たちは友達とかではないです。ただのビジネスパートナーです」と通訳すると会場の多くのファンは爆笑に包まれた。この当時はユーモアあふれる切り返しだとの評価が大勢だったが、今となっては本音で水原氏を突き放した秀逸なブラックユーモアとの評価となりそうだ。 取材・文:尾島正洋 ノンフィクション作家。産経新聞社で警察庁記者クラブ、警視庁キャップ、神奈川県警キャップ、司法記者クラブ、国税庁記者クラブなどを担当しフリーに。近著に『俺たちはどう生きるか 現代ヤクザのカネ、女、辞め時』(講談社+α新書)。
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