日本の3倍という広大な面積を占める内モンゴル自治区。その北に面し、同じモンゴル民族でつくるモンゴル国が独立国家であるのに対し、内モンゴル自治区は中国の統治下に置かれ、近年目覚しい経済発展を遂げています。しかし、その一方で、遊牧民としての生活や独自の文化、風土が失われてきているといいます。 　内モンゴル出身で日本在住の写真家、アラタンホヤガさんはそうした故郷の姿を記録しようとシャッターを切り続けています。内モンゴルはどんなところで、どんな変化が起こっているのか。 　アラタンホヤガさんの写真と文章で紹介していきます。

100キロ以上ある草を鉄製のソリに乗せて引っ張っている。これが家畜の夕飯になる＝フルンボイル市・シニバルグバロン・ホショー（2018年2月撮影）

　2015年8月、私はフルンボイル草原を訪れるという長年の夢を果たした。フルンボイル草原は中国でも有数の豊かな草原で、私の地元よりも伝統的な遊牧文化がよりよく残っている。子供の時からの憧れの地だったが、なかなか行けなかった。だが中国版のSNS、WeChatでウジムジさんという女性と知り合い、彼女の家で滞在しながら撮影させてもらえることになり、取材が実現した。 　彼女の家族はモンゴル民族の一部族であるバルグ部に属し、わずかながら伝統的な生活を残していた。一番驚いたことは、一度もレンガの家を造っていなかったということ。今でも移動式のゲルだけで生活している。私が訪れた時は夏営地に2軒のゲルを建てていた。ただ、2キロ離れた冬営地には、石積みの羊小屋などが造られていた。 　2018年冬、義母が倒れたので緊急に帰国した。すると思ったよりも回復がよく、容態が安定してきたので、妻が看病し、私は取材に行くことができた。 　ウジムジさん一家を再び訪ねることにした。 　今回は、夏営地から2キロぐらい離れた冬営地で2軒のゲルを建て、鉄製のボックスカーも1台使っていた。

内モンゴル自治区の地図

　昼過ぎ、ウジムジさんの弟は、家畜を井戸まで追いかけて移動させて水を飲ませる。今は昔のように人力で水を汲むのではなく、発電機を使用している。 　午後は家畜囲いの掃除を始める。午前中の草の食べ残しや糞などを集め、ホウキなどできれいに掃除してから草を与える。ここでは秋に草刈りをし、草を機械で丸め、圧縮させて、固めておく。その重さは500キロぐらい。それらの山積みした中から、毎日1個を降ろして家畜に与える。 　私はずっと、彼の働きぶりをながめながら撮影していた。仕事がない時には、彼はずっと耳からイヤホンを外さず、携帯でゲームをやっていた。その姿からは全く想像できない勤勉な仕事ぶりだった。 　彼の話によれば、最近の干ばつで、中国の四大草原と言われてきたフルンボイル草原の草の出来は、年々悪くなってきていた。自分たちの手持ちの草が新しい草が出るまでは、全然足りないのでどうしようか心配している、と聞かせてくれた。 　十分な草を購入するには相当な資金が必要で、遊牧民の家計が圧迫され、やむなく遊牧をやめる人が増えている。（つづく） ※この記事はTHE PAGEの写真家・アラタンホヤガさんの「【写真特集】故郷内モンゴル 消えゆく遊牧文化を撮る―アラタンホヤガ第9回」の一部を抜粋しました。

---------- アラタンホヤガ（ALATENGHUYIGA） 1977年　内モンゴル生まれ 2001年　来日 2013年　日本写真芸術専門学校卒業 国内では『草原に生きるー内モンゴル・遊牧民の今日』、『遊牧民の肖像』と題した個展や写真雑誌で活動。中国少数民族写真家受賞作品展など中国でも作品を発表している。 主な受賞：2013年度三木淳賞奨励賞、同フォトプレミオ入賞、2015年第1回中国少数民族写真家賞入賞、2017年第2回中国少数民族写真家賞入賞など。