手書きで文字をデザインする作字家・しののめ「自分だからできることを極めたい」
手書きで書かれたレトロでかわいらしい文字を、X(旧Twitter)にアップして話題を呼んでいる しののめさん。先日、初の著書『手書き文字デザイン倶楽部』(日貿出版社)も発売され、ますますレトロ文字の輪は広がるばかりだ。 【イラストギャラリー】しののめさん こだわりの作字 こだわりを英語にするとSticking(スティッキング)。創作におけるスティッキングな部分を、新進気鋭のイラストレーターに聞いていく「イラストレーターのMy Sticking」。今回は個性的な手書き作字で話題、しののめさんに作字をするようになったきっかけや、文字をデザインするうえでのこだわりを聞きました。 ◇子どもの頃から筆跡を見るのが好きだった さまざまなロゴや手書きで作字をする様子をSNSにアップしている しののめさん。文字に興味を持ったきっかけを聞いた。 「小学生くらいの頃から、人がノートに書いた文字とか、筆跡を見るのがすごく好きだったんです。母が文章を書くときとか、写真アルバムに文字を添えるときとかに、文字を囲んでデザインしたような字を書いているのを見て、それをマネしてみたいなと思ったのが、最初のきっかけだと思います」 子どもの頃は、とにかく何かを作って人に喜ばせることが好きだったという。 「自分が作ったもので、人に喜んでもらうのが好きな子どもでした。自作の健康お守りを毎年のように作って、親や祖父母にプレゼントしていました。小学生の頃は紙で作って、中学生の頃はお裁縫して作りました。 高校生になったら面白味がほしくなって、透明のテーブルクロスを切って、周りを赤い糸で縫って、『透明なお守り』と言って渡しました(笑)。手先は器用なほうでしたね。お守りだけではなく、花瓶とか、お皿とか、そういう実用的なものを、使ってもらって喜んでもらうのが好きでした。 何かを作ることと、文字が好きなことは自分の中で並行してずっとあるんです。この二つが融合したのが、いま自分がやっている『作字』なんだと思います」 しののめさんが、他の人の書いた文字に魅力を感じるのはどんな部分なんだろうか? 「文字って、一人ひとり違うじゃないですか。その特徴を見るのが好きなんですよね。子どもの頃に、人の文字を見て“かわいいな”と思ったら、“その人の文字を書きたい”って気持ちが湧いてきたんです。それで、その人の文字を研究して、それっぽい文字を書けるように練習するということをよくしてました」 他の人の文字をマネることから始まった しののめさんの作字。中学生の頃にはオリジナルの文字をデザイン、作字をするようになったという。 「中学2年か3年生の頃には、作字みたいなことはしてました。好きなアーティストさんの曲を聴いて、そのイメージを文字にして曲のタイトルを書くっていうことをやってました。この前、当時、書いたものが出てきて、SNSにも載せたんですけど。見つけたときに“これが今につながってるんだな”とあらためて思いました」 ◇CHEMISTRYからグッズの依頼が来た! それからしばらく、作字はしていなかったが、大学に入り、再び作字をすることになった。 「大学1年生のときにコロナ禍になったんです。暇な時間がたくさんあって、文字のデザインをしていたことを思い出して。サラサラっと小さいスケッチブックに書いたんですよ。それがうまく書けたから、軽い気持ちで自分の日常のことを載せてるSNSに載せてみたんです。 そしたら、友達や先輩が“こんなデザインできるなんてすごい!”とか“プロを目指したほうがいいよ!”って褒めてくれて。それで、もしかしたら自分はうまいのかもっていう気持ちになって。自分チョロいんです(笑)。 それで、SNSに“載せたら友達できるかな~?”ぐらいの感覚で始めたのが、ちょうど夏休みでした。コロナ禍の夏休みというモヤモヤした時間がなかったら、逆にやっていなかったんじゃないかなって」 SNSに載せ始めてから1年半ほどは、“文字を書くのが楽しい”という気持ちだけで作字を続けていた。あるとき、一発書きで文字を書いていく動画がバズって注目を浴び、フォロワーが激増した。 「なにげなく軽い気持ちで上げたら、思いのほかたくさんの方に見ていただいて、驚いた!という反応がとても多く届きました。有難いことにそこから徐々に多くの方に見ていただけるようになりました。」 その頃から仕事としての作字の依頼も徐々に増えていったという。 「お店の屋号のロゴとか、小説のタイトルとか、ミュージックビデオのタイトルとか、そういったご依頼をいただくことが増えてきたんですが、CHEMISTRYさんのライブタイトルロゴやグッズの依頼が来たときは驚いて飛び跳ねました(笑)。もうメールを何度見したかわからないです。ウソだ、ウソだって」 しののめさんの文字の特徴は、そのレトロな雰囲気だ。しののめさんは2001年生まれで、レトロな文字があふれていた時代に生きていたわけではない。「レトロ」な感覚は、どのように身についていったのだろうか? 「親と弟がお城が好きだったので、毎週末、全国各地に旅行に行っていたんです。旅行先で昔からある商店街に古い看板が残っていたりするんです。そういう文字を見るのも好きだったので、どうしたらレトロっぽく見えるかという感覚は、その頃に養われたのかなと思っています」