森七菜、日本を代表するクリエーターも信頼を寄せる実力派俳優「君ソム」では真骨頂のみずみずしい演技で魅了
「ナポレオン・ボナパルトは3時間睡眠だったらしい」(昼寝していたなど諸説あるが)そんな話を聞くと、これ以上テレビを見ていたら朝になってしまうけど、起きなきゃいけない時間まで3時間はあるからいいか、となる。でも、残念ながらこちらはナポレオンじゃない。せいぜい“下町のナポレオン”を片手に酔っ払っている庶民だ。そんな筆者のように自分の意思で寝ない人は自業自得で片付ければいいが、世の中にはインソムニア、つまり寝たくても寝られない不眠症に悩む人もいる。そして不眠症に悩みながらも一歩ずつ歩みを進める高校生を森七菜と奥平大兼が演じた映画「君は放課後インソムニア」(2023年)が、6月20日よりLeminoでも配信された。特に今作で持ち前のナチュラルな無邪気さをいかんなく発揮し、真骨頂ともいうべき“青春の香りをまとうみずみずしい演技”を披露した森のキャリア、魅力に迫る。(以下、作品のネタバレを含みます) 【写真】無邪気にダブルピース!是枝裕和監督も絶賛した森七菜 ■中学時代に大分でスカウトされ芸能界入り 森は2001年8月31日生まれ、大分県出身(大阪府生まれ)の22歳。中学生時代に大分でスカウトされると、行定勲監督がメガホンを取ったネスカフェのWebCMで芸能界デビューした。本格的な俳優デビューは、2017年にAmazon Prime Videoで配信された「東京ヴァンパイアホテル」。その後「先に生まれただけの僕」(2017年、日本テレビ系)や「やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる」(2018年、NHK総合)、「獣になれない私たち」(2018年、日本テレビ系)、「3年A組-今から皆さんは、人質です-」(2019年、日本テレビ系)など、さまざまなドラマに出演した。 担任の教師や身の回りの人に支えられながら大分、東京を往来して仕事と学業を両立していた森が広く知られるようになった作品といえば、2000人以上も参加したオーディションを勝ち抜きヒロイン・天野陽菜役をつかんだ新海誠監督のアニメーション映画「天気の子」だ。祈るだけで天気を晴れに変えられるという不思議な能力を持った少女を演じ、翌年開催の「第十四回声優アワード」で新人女優賞を受賞した。 その後も映画「ラストレター」(2020年)、「ライアー×ライアー」(2021年)、「銀河鉄道の父」(2023年)、夢だったという“朝ドラ”初出演を果たした連続テレビ小説「エール」(2020年、NHK総合ほか)、初主演ドラマの「この恋あたためますか」(2020年、TBS系)をはじめ、「あのコの夢を見たんです。」(2020年、テレ東系)、「逃亡医F」(2022年、日本テレビ系)、「舞妓さんちのまかないさん」(2022年、Netflix)、「真夏のシンデレラ」(2023年、フジテレビ系)と、映画・ドラマ・ジャンル問わず縦横無尽に活躍中。 ■「君ソム」で奥平大兼とW主演 映画「君は放課後インソムニア」は、2023年6月に森と奥平のW主演で公開された。同作は、2019年より「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)にて連載された“君ソム”の愛称でも親しまれる同名漫画を実写化。誰にも打ち明けていなかった不眠症という共通の悩みを持つ高校生・曲伊咲(森)と中見丸太(奥平)が休部中の天文部を復活させるため、周囲の温かいサポートを受けながら前進し、次第に絆を深めていく――。 どうせ不眠症で眠れないし、天文部を復活させれば“自分たちの居場所”も堂々と使える…と最初はやや不純な動機だったが、先輩や先生、学校の友達、家族も巻き込んで天文部復活に動きだす中で真剣に活動に取り組み、やがて悩みを抱える“同志”から“大好きな人”へと変わっていくさまが実にフレッシュに、美しい風景とともに鮮やかに描かれている。 個人的には中見(奥平)から真っすぐに思いを伝えられ、シンプルに自分も好きだと言うのではなく、カメラを持っている中見に対して曲(森)が「ねえ、撮って。生まれてきて今一番うれしい私の顔、残してほしい」と返すシーンの2人が、あまりにもほほ笑ましく、心を打たれた。同作の舞台あいさつで曲の姉を演じた工藤遥が言っていた「ずっと見ていられる2人(森と奥平)だなと。“かわいくて泣く”ってことを人生で初めて経験しました」という発言も理解できる。 森といえば映画の舞台あいさつなどで、先輩俳優や監督に対しても物怖じせず素直な言葉で発言したり、時にはイジったり、同年代のキャストと笑い合ったり。22歳の今でも子どもっぽさを残し、どこか都会に染まりきっていない雰囲気というか、自然体な姿が魅力。役によって消すこともあるが、ナチュラルに青春の香りをまとっている希有な存在だと思う。この作品ではそんな森の魅力が存分に生かされた演技を見ることができる。 ■映画「ラストレター」主題歌で歌手デビューも 森は俳優活動以外も行っていて、2019年には新垣結衣や森の憧れでもある広瀬すずら歴代人気女優を輩出した「全国高等学校サッカー選手権大会」の応援マネージャー(15代目)を務め、2020年8月31日にはファースト写真集「Peace」を出版。出演した映画「ラストレター」では主題歌「カエルノウタ」も担当して歌手デビューし、ホフディランの「スマイル」を森が生き生きと歌う「オロナミンC」のCMも話題に。同曲はホフディランのプロデュースで森がカバーし、配信シングルとしてリリースされた。2024年3月には出演した映画「四月になれば彼女は」のロケ地であるボリビア、アイスランド、チェコなど計10カ国で撮影を行い、21日間に及んだ旅の様子を収めた写真集「WANDERLUST(ワンダーラスト)」もリリースしたばかり。 今から5年前、「天気の子」公開当時に当メディアの取材で、今後の目標を聞かれて「信頼される人になりたいです。監督さんやプロデューサーさん、作品を見てくださる方からも『森七菜なら任せられる、大丈夫』と思っていただける女優さん。そうなれるように一生懸命頑張ります!」と答えた森。現在まだ22歳という若さだが、同作で新海監督とタッグを組んだ後も岩井監督、是枝裕和監督、藤井道人監督と何年俳優業をしていてもなかなか作品に出演することすらかなわない日本屈指のクリエーターと仕事をこなし、信頼を得てきた。 ■是枝監督、森を「ずっと褒められます」 「舞妓さんちのまかないさん」でタッグを組んだ是枝監督は、同作のメーキング動画で「オーディションの時からキヨ(森の役名)でしかなかったんですけど、あの時から役が入っていたんだよね。その辺がすごいよね。(役ではない姿で接して)こうやって見ると、あれは演じていたんだなと…。(スタッフに)ずっと褒められますけど、ずっと褒めましょうか?」と本人を前に語っており、オーディション時から既に役をバッチリ体現していた森を絶賛している。恐らく、これまで彼女を起用してきた名だたるクリエーター陣に森七菜評を聞けば「信頼して仕事を任せられる人」というのは、共通の答えとして返ってくるに違いない。 2024年も映画「四月になれば彼女は」やNetflixオリジナル映画「パレード」などで好演を見せているが、今後もさらなる飛躍を遂げ、たくさんのファンをいつでも“スマイル”にしてくれるはずだ。 ◆文=森井夏月