小池徹平が“ヘンタイ不倫男”として、これでもかと暴れまくる最大の理由|ドラマ『離婚しない男』
小池から鈴木への“馬のはなむけ作品”
それにしてもちょっと演技が過剰過ぎはしないかと揶揄されてもいたし方ない。本作は何せ、鈴木おさむによる地上波連ドラ脚本の引退作なのだから。どうやら小池はこうした背景で、鈴木おさむのためならと、意気込んだらしい。 小池にとって映画初主演作となった『ラブ★コン』(2006年)の脚本を書いたのが鈴木だ。彼にとってもその後、映画脚本を手がけていく足がかりになった記念碑的な作品でもある。 お互いチャンスをつかんだ者同士。一度乗った船は簡単には降りない。もしどちらかが降りるときには、最大の餞別を用意することを忘れない。恐るべき怪演で魅せる『離婚しない男』は、何より小池から鈴木への馬のはなむけ作品なのだ。
小池徹平オペラ・コミック
とはいえ、そんな関係者同士の背景など、実際の画面から視聴者に気取られてしまっては野暮。小池は、はなむけ的な意気込みなど、お首にも出さない。 むしろ、勝手に勢いづいた感じで、自由奔放に振る舞い、暴れまくる。あの大げさな演技は、言わば、フィクション性を最大限強めるため。小池徹平による小池徹平劇場を開幕し、マサト役の悲喜こもごもを、小池徹平オペラ・コミック(喜歌劇)とする。 「ラストシーンだ!」とか「フィナーレだ!」言っておきながら、逆に結末が二転三転、予測不能になる盛り上がり方が、この喜歌劇の特徴。渉をホテルに連れ込むことに成功したマサトが、事務所のテーブルに立ち上がって、雄叫びのような唸り声を上げたり、ヌハハハハと高笑い。すべてが見せ場のようだ。
“嘘から出たまこと”の不倫ドラマ
歌うように演じ、演じるように歌う。シンガーソングライターでもある小池には、歌と芝居の横断は朝飯前か。綾香に対する誘惑のささやきはリズミカルに響くし、渉と直接対峙する瞬間でさえ、軽やかな拍子を取っている。 マサトはまた、歌うように嘘をつく人でもある。綾香はマサトにぞっこんだけれど、彼にとって彼女は渉への復讐を遂げるためのコマに過ぎない。マサトが渉に差し向けた刺客と思いきや、官能的な竹場ナオミ(藤原紀香)は実は工作員ではなかったというのも巧みで周到な嘘のひとつ。 マサト陣営が矢継ぎ早に繰り出す嘘の数だけ、ドラマ全体が嘘の衣を何枚も重ねていくよう。でもきっとこの嘘が、不倫の本質(真実)を解き明かすことになるのかなと思う。“嘘から出たまこと”の不倫ドラマということ。 <文/加賀谷健> 【加賀谷健】 音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
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