キャスター・小倉智昭さん「何なんだ? この国は!」小倉節を、もう一度聞きたい 使命として伝えた治療の経過、医師たちにも学び
【ドクター和のニッポン臨終図巻】 今でこそ「死」の問題は、どのテレビ番組でも普通に扱われるようになりましたが、一昔前、特に朝の情報番組では「死を扱うなんてとんでもない!」という反応でした。そこに風穴を開けてくれたのは、2013年8月の『とくダネ!』(フジテレビ)です。自宅で穏やかに死ぬために何が大切かを丁寧に取材してくださり、僕の患者さんも、僕も出演しました。 【写真】ギターを手にする小倉智昭さん それまでの司会とは違う立ち位置で、歯に衣(きぬ)着せずどんなタブーにも挑戦していった『とくダネ!』のキャスター、小倉智昭さんが、東京都内の自宅で9日に死去されました。享年77。 長年糖尿病を患っていた小倉さんが膀胱(ぼうこう)がんと診断されたのは、16年、68歳のとき。尿の中に血が混じっていたことで異変に気がついたといいます。内視鏡手術を受けたものの、医師からは「状態がかなり悪いから膀胱の全摘を」と勧めらます。男性機能を失うことに未練があり逡巡(しゅんじゅん)していましたが、2年後にポリープから大出血をしたことから全摘手術。小腸を60センチ切って、代用膀胱を造設しました。 女性よりも男性の方が3倍罹患(りかん)率が高い膀胱がん。小倉さんが仰ったように男性機能と直結するためなかなか話しづらい、聞きづらい病気です。しかし小倉さんは、「だからこそ治療の経過を話していかなければ」と、その後、病状を赤裸々にお話しするように。 「勃起神経は切ったが射精神経は残っている。ビュッと出たのがオシッコだったりして…そういうことは医師も知らないから、泌尿器の学会に呼ばれて講演した」 「常に尿漏れパッドをあてて生活している」などというお話を聞いたときは、驚きました。いちばん話しづらいことを、キャスターの使命として伝えることで同じ闘病をしている人たちに勇気を与え、医師たちにも学びを与えてくれました。 2021年3月に『とくダネ!』を卒業。その年の9月には、がんが肺に転移しステージ4であることが判明しました。それでも、テレビやラジオの仕事を続けられていたのも同年代には大きな励みとなったことでしょう。 そして昨年12月には、腎盂がんと診断され、左の腎臓を摘出。免疫チェックポイント阻害薬であるキイトルーダにも挑戦され、その副作用を含め、治療の経過を断続的に公表しておられました。