スーパーの店員からVリーガーへ! 壱岐出身の27歳・長嶋郁弥「島の子たちの道しるべに」 長崎
昨年1月、熊本県八代市に誕生した男子バレーボールチーム「熊本ヴィレックス」。2年後のVリーグ参入を目指して、精力的に活動を続けている。そんな新進チームの主将を務めるのは、昨年末まで長崎県壱岐市のスーパー精肉売り場で働いていた長嶋郁弥(壱岐商高出身)。1月から八代市に移住して、本格的にプロ選手を目指した一歩を踏み出した。スーパーの店員からVリーガーへ。島の人々や買い物客の応援を受け、27歳の異例の挑戦が始まった。 ■生きた筋トレ 壱岐市出身。「すぐにレギュラーになれそうだったから」と郷ノ浦中1年からバレーを始めたが、選手として一度も脚光を浴びた経験はない。中学3年で身長は180センチを超えたものの、部員不足もあって「試合で勝った記憶もあまりない」。壱岐商高でも県大会1回戦突破が最高だった。 高校卒業後は福岡県のスーパーに就職。慣れない生活が始まり、バレーからも離れた。一方で学生時代から好きだった筋トレにはまり、筋肉美を競う「フィジーク」の大会にも出場した。 福岡で3年過ごした後の2019年。帰郷をきっかけに、再びコートに立った。とは言っても、それは知人に誘われた地域の社会人チーム。ダイエットの一環程度に考えていたが「思ったよりも楽しかった」。週に1度、練習に参加するようになった。 ここで生きてきたのが趣味で続けていた筋トレだった。高校卒業後に継続してきたことは「ジム通いと仕事で肉を切ることぐらい」。最初は「全然動けないだろう」と不安だったが、思いのほか跳べた。体ができていなかった高校時代と比べて最高到達点は20センチも高い3メートル30センチに。スパイクの威力、スピードも見違えるほど成長していた。 ■最初の主将に 転機は地元小学クラブでコーチを始めた昨年1月。たまたま保護者が熊本ヴィレックスの早瀬省吾代表とつながりがあり、チームを創設したこと、選手を募集していることを知った。「長嶋くんなら受かるよ」。背中を押されて2月のトライアウト受験を決めた。以降は自分で体育館を借りて、仕事終わりに自主練習。高校卒業以来、約8年ぶりに本格的にバレーボールに打ち込んだ。 迎えたトライアウト。受験者は熊本県の名門、鎮西高出身者ばかりだった。高度な戦術、プレーに圧倒される部分もあったが、自分なりに必死にアピールした。結果は「まさか」の合格。早瀬代表が「他とは目の色が違う、プロを目指す本気度が伝わってきた」と高く評価してくれた。はつらつとした人柄なども認められ、チーム最初の主将に抜てきされた。 子どもたちへの指導はチームをまとめることにも役立っている。「周りは熊本出身で共通の知り合いばかり。それぞれがどういう人間かを知るためのコミュニケーションは、子どもたちへの指導で鍛えられた」 ■業務との両立 今月からはチームの母体となる熊本スポーツクラブの社員として、業務と練習の両立に汗を流している。身長185センチ、体重79キロでポジションはオポジット(OP)。攻撃に専念する、いわばエースが務める場所を任された。周りは大学卒の若手ばかりだが、年下の仲間たちがどれだけ台頭しても、どんなにきつくても、退路を断ってきた以上、弱音も吐くわけにはいかない。 「島出身でもこんなにやれるんだよ、と子どもたちに思ってもらえるように頑張る。道しるべになりたい」。バレーの楽しさを再確認させてくれた地元への感謝と覚悟を胸に、27歳は前だけを見て進んでいく。