アニメ・CM曲で脚光浴びても消耗しきった芸能界 元ビジュアル系ロック「LEGOLGEL」の坂井慎一さん 古里でかみしめる歌う喜び
約20年前、アニメやCMソングを連発し、テレビ番組のパーソナリティーも務めたビジュアル系ロックバンドのメンバーが今、古里の広島県庄原市に暮らす。社会福祉施設に勤め、地域のイベントのステージにも立つ。過酷な芸能界で心身を消耗し、音楽からいったん身を引いた後、かみしめる歌う喜び。「古里を盛り上げたい」と根を張り、再スタートを切っている。 シンガー・ソングライターの坂井慎一さん(47)。昨年12月末、国営備北丘陵公園で4年ぶりのライブを開いた。数十人の観客を前にアコースティックギターを鳴らし、つやのある声で計8曲を披露した。 幼少期から歌が好きで、庄原の児童合唱団に入り、三次高ではバンドに熱中した。卒業後の1994年、芸能界を夢見て上京。ライブハウスで幸運にもスカウトの目に留まる。99年、事務所プロデュースの3人組LEGOLGEL(ルゴルジェ)のギターKAKEL(カケル)としてメジャーデビューを果たす。 深夜番組「ワンダフル」「デビルマンレディー」「寿がきやのラーメン」…。目が回る8年でリリースした9枚のCDはアニメやCMとタイアップした曲がずらり。全国ツアーもあった。チャリティー番組「24時間テレビ」東海地区パーソナリティーを担い、お茶の間の知名度も上がった。 だが、「方向性の違いというか、何より自分が歌いたかった」と、2007年に脱退して芸能界を離れた。ビジュアル系を演じるのも疲れた。ホテルに就職するものの、その頃出会ったアコースティックギターバーの店長に背中を押され、再びギターを持つ。作業所や福祉施設の祭りで歌を届けた。 帰郷を決めたのは「親の背中が小さく見えて。そろそろ戻る頃かなと」。16年、障害のある人が通所・入所する「庄原さくら学園」を運営する社会福祉法人に就職した。思えば児童合唱団でも24時間テレビでも、福祉施設を訪れる機会が多かった。縁を感じる。学園の八谷文策理事長(81)は「施設では利用者を集めて歌うこともある。人を引っ張る力がある」と温かく見守っている。 仕事に軸足を置き、音楽を通じて庄原を発信し地域を活気づけたいと先を見据える。「やってみようと思った時がスタート。年齢は関係ない」。自分にも、聞いてくれる人にも向けたエールを歌に乗せる。
中国新聞社