戦前に米国留学し、議会図書館で日本課長の公職得る 波乱の人生歩んだ日米草分けの女性が現代に問うもの【ワシントン報告⑤坂西志保】
実際、開戦と同時にスパイ容疑で逮捕されたが、坂西に詳しいノートルダム清心女子大(岡山市)の横山学名誉教授は論文で「米国社会を知らない(日本)大使館員に米国人の考え方や感じ方を伝えるのが自分の役割である、と坂西は考えていたようである。坂西にとってはどれも日常生活の積み重ねで、特別な活動をしたという意識はなかったに違いない」とみている。 逮捕に伴い帰国を余儀なくされ、戦後は歯に衣着せぬ評論家として知られた。新聞を繰ると、民主主義に基づく開明的な米国に対し、立ち遅れた日本という図式の発言が目立つ。反発する人もいただろう。北海道生まれを隠した形跡もあるが、明確な理由は分からない。 ▽縮小する留学生 坂西らが苦労して先鞭をつけた日本人の米国留学は年々縮小している。学位取得が目的の留学者数は中国や韓国に抜かれて久しい。米国の留学情報統計サイト「オープン・ドアーズ」によると、2021~22年は中国の約28万人、韓国の約4万人に対し、日本は約1万1千人にとどまる。他方、日本人の語学留学生は国別で最も多い。英語は身に付けたいが、米大学進学までの意欲は薄いということか。経済的な問題も大きいのだろう。
坂西は数多くの著作を残し、日本でも国家公安委員など請われた公職に数多く就いた。横山名誉教授は取材に「求められたことに一つ一つ応えて自分の場所を確立していった。抜群の英語力、多くの人に慕われた人間力はすごいと思う」と語った。