なぜ霜降り明星・粗品は90年代の松本人志より”嫌われて”いるのか? ともに強烈な毒を吐きながらも“粗品アンチ”が圧倒的に多い意外な理由
「芸人としての器」と高すぎる「毒舌レベル」
もちろん1990年代と現在では時代が違いすぎるため単純比較はできない。 昔は今のようにインターネットが普及しておらず、一般人の声が広く可視化されるSNSなんてものはなかったから、“松本アンチ”が見えにくかっただけかもしれない。 また、近年はコンプライアンス意識が強化され、差別やハラスメントに対して世間の目は年々厳しくなっているため、今は毒舌芸が厭悪の対象になりやすい。 そのため1990年代よりも現代は毒舌芸人が生きにくいという側面はあるだろう。 ただ、そういった時代背景を差し引いても、当時の松本よりも今の粗品のほうが嫌われていると感じているのは、筆者だけではないはず。 ここで筆者なりの結論をお伝えしたい。 粗品が嫌われる理由――それは、彼のお笑いの才能レベル以上に毒舌レベルが高まりすぎているから。 コレだと思うのだ。 松本人志のお笑いの才能レベルは突出しており、その天才っぷりで大衆を黙らせていた感があった。アンチもいただろうが、その次元の違うセンスで屈服させていたに違いない。 松本は旧時代の既成概念をブッ壊し、新たな笑いの価値観を生み出していた。松本の暴言も相当なものだったが、新時代を創生していた松本の才能レベルは、彼の毒舌レベルを圧倒的に凌駕していたように思う。 では、粗品はどうだろうか。 彼のお笑いのセンスは確かに素晴らしいものがある。コンビでの漫才も、ピンのフリップ芸も、平場のトーク力も、トップレベルにおもしろい。磨き抜かれた名人芸だ。 けれど、言い換えれば“今の時代のお笑いの中ですごくおもしろい”ということで、その枠組みから飛び出してしまうほどの“常識外のお笑い”ではない気がするのである。 粗品がもし、旧時代をブッ壊して新時代を創っていくほどのお笑いを提供できていれば、毒舌を吐きまくってもここまでアンチは湧いていないのではないだろうか。
松本人志は紛れもなくお笑い界のゲームチェンジャー
粗品は、25歳だった2018年にコンビで『M-1グランプリ』優勝、26歳だった2019年にピンで『R-1ぐらんぷり』優勝している。しかも両大会とも史上最年少で頂点に立つという快挙を成し遂げている。 この二冠達成の実績から、粗品の笑いの才能は誰もが認めるところ。きらりと光るセンスがあり、既存のお笑い界のなかでも非常に優秀な芸人だ。 しかし、松本は次元が違っていた。 26歳だった1989年に今なお続くご長寿番組『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ系)、28歳だった1991年に伝説のコント番組『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ系)のレギュラー放送をスタートさせている。 この2つは社会現象を起こすほどムーブメントを巻き起こしたが、ただヒットしただけでなく、その後のお笑い界に変革を起こしたエポックメイキングな番組だったといえる。 ときには皮肉的に、ときにはサイコに……それまで誰も思いつかなかったような斬新な角度からの笑いを、松本は次々とアウトプットしていく。そして、新しく世に現れた“松本人志のセンス”を、後続の芸人たちやバラエティ番組がアレンジしながら真似していく。 松本は紛れもなくお笑い界のゲームチェンジャーだった。“松本以前・以後”で日本のお笑いは確実に変わっている。 だが、粗品は今のところそういった決定的なゲームチェンジを起こせていないのだ。 余談だが、テレビ業界において霜降り明星はかなり失速している。 2018年の『M-1』優勝で本格ブレイクした霜降り明星は、全盛期には全国ネットのレギュラー番組が10本近くあった。 だが今年7月からはコンビのレギュラーはわずか1本になる模様。フロントメンバーを務める『新しいカギ』(フジテレビ系)は、今年の『FNS27時間テレビ』(フジテレビ系)のメインに抜擢されるなど絶好調だが、今月末で冠番組『霜降りバラエティX』(テレビ朝日系)の終了が決定済で、残るは『新しいカギ』のみになる。 もちろん今の時代、テレビの成否が芸人としての成否ではない。実際、粗品は個人のYouTubeがチャンネル登録者数205万人、コンビとしてのYouTubeがチャンネル登録者数212万人(6月18日現在)と大成功しているので、本人に焦りはないだろう。 とはいえ、テレビ業界での存在感が薄まってきているのもまた事実なのである。
才能の器以上の毒舌レベルに達していることが原因か
“粗品アンチ”が急増しているとしたら、彼の暴言の数々が嫌悪されているというのは、あくまで表面的な原因という気がしてならない。 粗品がセンスあふれる芸人であるということは間違いないし、彼のネタで何度も何度も笑わせてもらった。 だが、その毒舌レベルは、彼の芸人としての器を超え、かなり高い域に達してしまっているように感じる。それこそが、アンチ急増の真の原因なのではないだろうか。 文/堺屋大地 サムネイル/共同通信社
堺屋大地
【関連記事】
- 松本人志が31歳で書いた『遺書』。M–1誕生前の注目発言や「大阪の芸人は二度売れなくてはならない」といった名言オリジンから感じる“松っちゃん”の真実の顔
- 「地獄に鼻までつかっていた」THE SECONDベスト4の金属バットはなぜ芸人をやめなかったのか?「やめるほうが賢いんですよ。俺らは臆病もんやから、ただただ現状維持を保とうとして。じわじわ死ぬドジョウ、豆腐に突っ込んでいくほう」
- 「僕だって大御所芸人の番組を途中で帰ったことあるよ」…いじめに悩む高2男子をとろサーモン久保田が激励「あなたは自分から波風を立たせることができる」
- 7歳のときの初恋相手・香取慎吾に会って大号泣の愛、憧れのダウンタウンに改名してもらってなぜか落ち込む誠…ヨネダ2000にとって究極に「好きな人」
- 「解散は顔ファンだけのせいとは限らない」ハイツ友の会、電撃解散…なぜ女芸人に解散と引退が続出するのか