錦鯉の漫才「頭が良くなる本を買ったよ!」に対する完璧なツッコミは?
同作では、武田鉄矢が何かにつけて「このタコ!」という言葉を使い、その悪態はタコっぽさのかけらもない王女に対しても向けられる。そして重要なのが、ラストシーンでの使われ方だ(以下、ネタバレを含むため、これから見る予定のある方は次の節までスキップしていただきたい)。 愛した女性が実は王女様だったことを知った鉄矢は、彼女にもう一度会うために空港に向かい、搭乗口で報道陣に囲まれた彼女を見つける。 記者たちの中に鉄矢がいることに気づいた王女は、側近に「記者たちに写真を撮らせてあげたい」と告げて鉄矢に近づく。戸惑いながらカメラを構える鉄矢に、王女は日本語で一言、「このタコ」とつぶやく。カメラから顔を離し、王女を見つめる鉄矢。側近に促されて、鉄矢から離れていく王女。 感動的なラストだ。私は子供時代にテレビでこのシーンを見て号泣した。もしもこの台詞が「このタコ」ではなく「このアホ」「このクズ」「このバカチンが!」とかだったら、この感動はなかったと思うのだ。何がどうタコなのかがいまいちよく分からないからこそ、こういう底力を発揮できるのだと思う。
ちなみにノンフィクション作家・高野秀行さんの『ミャンマーの柳生一族』によれば、『ヨーロッパ特急』はミャンマーで大人気らしい。個人的に、この映画での武田鉄矢の名演技ぶりは、あの「僕は死にません」に匹敵すると思う。 ● 錦鯉・渡辺の「早く読めよ」が 完璧なツッコミなワケ 人を貶める言葉は、必ずしも「アホ」「バカ」「~しやがる」のようなものだけとは限らない。一見そういう言葉が入っていなくても、文脈との相互作用によって、十分に悪口として機能する文はいくらでもある。 そういった例の中で私がとくに気に入っているのは、2021年のM-1グランプリで、錦鯉の漫才の冒頭に出てきた次の会話である。 長谷川「頭が良くなる本を買ったよ!」 渡辺「早く読めよ」 渡辺さんの「早く読めよ」は別に悪口構文ではないし、「アホ」「バカ」のような言葉も含まれていない。しかし、長谷川さんを貶める文として完璧に機能しており、同時にどこか洗練された感じもする。