ジ・エンプティ、地元福岡でツアーファイナル開催 フロアはシンガロングの嵐【ライブレポート】
西鉄福岡(天神)駅から徒歩10分、今日の会場である「LIVE HOUSE Queblick」の前には長蛇の列ができていた。場内に入ると、「扉が閉まらないので、一歩前に詰めてください!」とスタッフが何度も観客に声をかけている。開演前からジ・エンプティに対する期待と熱気渦巻くフロアを見て、筆者も興奮せずにはいられなかった。 【画像】ジ・エンプティのツアーファイナル福岡公演のライブ写真(全14枚) 2019年に結成されたジ・エンプティは、福岡県久留米発の4人組バンドとして活動。過去に04 Limited Sazabysが若手と対バンを繰り広げた『Harvest tour 2022』の長崎公演にジ・エンプティは呼ばれた経緯もあり、じわじわとバンド名を広めている。そんな彼らが今年12月に4曲入り1st EP『神様からの贈り物 e.p.』を発表。そのレコ発ツアーは東名阪の3カ所(対バンあり)を経て、地元福岡にてツアーファイナルを迎えた。今日はクリスマスということもあり、街は人で溢れ返っていた。けれど、会場も街の賑やかなムードに負けない、ギチギチのソールドアウトを記録。しかもファイナルのみワンマン公演となり、ジ・エンプティ目当ての観客だけで会場はパンパンに膨れ上がっていた。 SEが流れると、ハルモトヒナ(Vo)、トクナガシンノスケ(Gt)、クガケンノスケ(Ba)、カワカミタイキ(Ds)のメンバー4人が登場。オープニングは最新EP収録の「思い出は甘いままで」でスタート。甘いメロディを配したミドルテンポの曲調に、早くも熱い拳が突き上がる。「福岡県久留米市、フロムWEST POINT(地元のスタジオ名)! ツアーファイナルへようこそ! ケガ、スリ、痴漢以外は全部やっていけ!」とヒナが煽ると、アクセルをグッと踏むように「ラブソング」をプレイ。ケンノスケの骨太なベースを含めて、パンキッシュな演奏を威勢よく叩きつける。すると観客は拳を突き上げたままジャンプし、クラウドサーフする人も続出する有様だ。 間髪入れずにショート曲「神様からの贈物」を放つと、フロアはより一層熱を帯びていった。4曲目の「MY SWEETIE」をやり終えると、「すごい熱量、やばいね。大事なクリスマス、来てくれてありがとうございます! 僕らすげえ緊張しているんですよ」とヒナが言うと、観客から「エーッ!」という声が飛び交う。序盤からエンジン全開で飛ばす力強いパフォーマンスに、“緊張”の二文字は似合わない。そう感じた人たちが多かったのだろう。 ヒナはMCで、今回の対バンツアー3カ所でリアルな現状を把握したことに触れていた。だからこそ、ワンマン公演は自分たちのことを応援してくれるファンしかいない。そこに向けて、全身全霊で魂を解放させる術を獲得したのかもしれない。「おやすみレイディ」「さよなら涙」「あいつの唄」では振り切った猛烈なパッションを突きつけ、フロアをぐちゃぐちゃに掻き回していた。 「この曲(「あいつの唄」)は大学の友達に書いた曲で、今日誘ったけど、彼女に獲られたわ。そいつすげえいい奴なんやけど、めちゃくちゃバカで、やりたいことしかやれんとよ。俺らもやっていることは同じで、嫌なことも我慢していたら、みんなが来てくれて、ソールドアウトを打つことができました!」とヒナは感謝の気持ちを述べて、「ロンリーナイト」に繋ぐ。アカペラ調の切ない歌メロで始まり、裏声も交えたバラードを丁寧に届けていく。荒々しいパンキッシュな楽曲もいいけれど、Jポップ好きにも突き刺さるメロディの良さも特筆すべきポイントだ。軽快なリズムが心地いい「Sunday morning」はシンノスケの味わい深いギター、わかりやすいサビも効果的で優れたポップ性を猛アピール。この2曲の流れもライヴにいいフックをもたらしていた。それと同時に彼らが自身のホームページで「青春パンク」ではなく、「青春ロック」と謳う理由がわかった気がした。自身のルーツにあるパンクやポップスを踏まえた上で、多彩なアプローチができるロックバンドでありたい。そういうスタンスがライヴからも滲み出ていた。 後半は「テイクミーアウト」を皮切りに再びシンガロングの嵐を巻き起こす。聴く者の共感を誘ってやまない、ストレートな歌詞はバンドの大きな武器と言っていい。それから「バチコイ」ではヒナがクラウドサーフで会場後方のPA卓に行き、「好きなだけ泣いたらいいじゃない 好きなだけ怒ったっていいじゃない 僕が全てを包み込むよ あぁ抱きしめて抱きしめて離さない」の歌詞を観客と共に盛大に歌い上げるシーンもあった。そして「グッバイ青春」を経て、本編ラストの「空っぽの唄」では隣同士の観客が自然と肩を組み、フロアが横に揺れるピースフルな景色を作り上げた。 アンコールに応えると、ケンノスケがサンタの衣装で現れ、ジャンケン大会でプレゼントを配るクリスマスらしい演出もあり、これには観客も大喜び。その後に「さよなら涙」をレゲエバージョンで聴かせたり、松田聖子の「赤いスイートピー」をパンクアレンジでカヴァーしたりと、引き出しの多さを存分に見せつけてくれた。最後は今日2度目の「おやすみレイディ」と「テイクミーアウト」をブチかまし、長丁場のワンマンを締め括ってくれた。 大声でシンガロングしたくなる魅惑の楽曲を多く持つジ・エンプティ。今日の凄まじい盛り上がりを体感して、大袈裟ではなく、00年代前半に頭角を現した銀杏BOYZやMONGOL800などのライヴが脳裏をよぎった。音源もいいけれど、ジ・エンプティは現場主義の生粋のライヴバンドである。地元福岡から全国区へ羽ばたくためにも、今日のワンマン公演は大きな通過点になったのではないか。彼らはライヴでとんでもないポテンシャルを発揮する、新世代の青春ロックバンドと言っても過言ではない。これからの成長が本当に楽しみである。 文:荒金良介 <セットリスト> ジ・エンプティ「神様からの贈物ツアー 2023」12月25日(月) 福岡Queblick 01.思い出は甘いままで 02.ラブソング 03.神様からの贈物 04.MY SWEETIE 05.おやすみレイディ 06.さよなら涙 07.あいつの唄 08.ロンリーナイト 09.Sunday morning 10.テイクミーアウト 11.君が 12.バチコイ 13.輝き 14.グッバイ青春 15.空っぽの唄 En1.さよなら涙(レゲエver.) En2.赤いスイートピー(cover) En3.今宵はベイビー En4.おやすみレイディ En5.テイクミーアウト