田代まさしさん「みんなを笑顔にしていたら、いつかは自分も」 沖縄で語った、自虐ネタに込める希望
「お好み焼き食ってただけで、SNSに『田代まさしが“粉”もん食ってた』って書かれるんですから」-。元タレント・歌手の田代まさしさんが3月30日から4月1日にかけて、沖縄県内各会場で3日連続のライブを敢行した。自虐ネタを軸にしつつ、歌やダンスをふんだんに盛り込んだショー。観客からの指笛や拍手で大歓迎を受けていた。 【写真】インタビューに応じる田代まさしさん 「シャネルズ」「ラッツ&スター」のメンバーとして1980年代前半の音楽界を席巻し、その後も人気タレントとしてお茶の間を笑顔にしてきた田代さん。現在は何度も重ねた薬物事件で保護観察中の身でもある。 「みんなを笑顔にしていたら、いつかは自分も笑顔になれる」。そう信じている田代さんはこの日、まさにたくさんの笑顔を生んでいた。歌い続ける理由、自虐ネタに込めた意味とはー。田代さんに話を聞いた。(文・写真=ライター・長濱良起) ■芸能界復帰があるとするならば -半年前も、沖縄にライブでいらしていました。今も積極的にライブ活動をされているのでしょうか。 「そんなに多くはしていませんが、お話を頂いた場合に受けています。あまり依頼は来ないかなと思っていましたが、結構頂いています。ただ、保護観察中なので(保護観察所の担当者と)報告や調整はあります」 -今回、沖縄でライブ会場以外に訪ねた場所はありますか。 「宜野湾市に『ドラッグ・マーシー』というお店があって、いろんな人がそこの写真を僕に送ってくるんですよ(笑)。これは行かなければ、と今回初めて行かせてただきました。お店のお姉さんにごあいさつして、店名の由来も教えてもらいました。真志喜(ましき)を、外国の方が発音できなくて『マーシー』と呼ばれていたみたいですね」 -ご自身の芸能界復帰についてどのようにお考えですか。 「何回も罪を犯して、テレビにもずっと出られていないので、自分の中でもう『芸能人』という意識があまりないんですよ。2014年に、2回目の服役から仮釈放となり、薬物依存リハビリ施設のダルクで回復を目指していた時に『なんかもう、芸能界には戻らなくていいかな』って」 「それには理由があります。復帰のタイミングは、誰かが 決めるものではないですよね。自分でもない、テレビ局でもない。世間の風潮が『もう良いんじゃないの、マーシー』となった時だと思います。もしそうであるならば、毎日ちゃんと薬物をやめ続けることに専念した方が良いと思ったんですよ。自分の側から『早く芸能界に戻りたい』と高望みするのではなく、毎日頑張っていたら、結果的に復帰の声がかかり、それに応えるというのが目指すべき形かと思っています」 ■「信じていれば未来は変えられる」 -ライブ活動を続けていらっしゃるのは、どのような理由からでしょうか。 「ライブだけではなくて、薬物関係の講演もやっているんですよ。今後も、そういう機会を増やしていきたいとは思っています。それにはもちろん『自分の経験談を他の人の勇気につなげる』という面もありますが、ダルクで教わった『自分の経験を人のために役立てることが、依存症の回復には一番良い』ということをただただ実行しているだけです」 「僕のステージを初めて見た人から『ファンになりました』と言われたらすごくうれしいんですよ。毎回、うれしいですよ。自分には法律を変えることもできませんし、他者の考えを変えることもできません。ただできることは、こうやって自分のことを好きでいてくれる人を一人ずつ増やしていくこと。大事なのはこういうことの積み重ねなんだなと感じています。『過去は取り戻せないけど、信じていれば未来は変えられる』と思っています」 -ご自身の心の支えになっているものは何ですか。 「『あの頃、最高だったよ』って言われることがあるんです。志村けんさんと一緒に番組をさせていただいたこと、鈴木雅之とシャネルズを作った物語、自分の過去の中にも生かしていい部分があるんだと思えるようになってきました」 「そういう声が、僕が薬をやめ続ける糧になります。家にこもるのではなく、あえてバッシングも受け止めながら、人に会って、応援の言葉を頂くことで『頑張ってみよう』という気持ちになれるんですよね」 ■1人でも「田代面白かった」と言ってもらえたら -自虐ネタでは毎回お客さんが喜んでいますね。 「自虐ネタをすることで『田代は反省していない』と受け取られることもありますけど、自分の中では『こういう自虐ネタもできるようになるほど回復しました』という報告の一環でもあります。受け取り方は十人十色で賛否もあるかと思います。でもその中に1人でも2人でも『田代面白かった』『最高だった』って言ってくれる人がいたら良いんです。『みんなを笑顔にしていたら、いつかは自分も笑顔になれる』と信じています」 「自分のつらい話をつらく話すことはできます。でも、誰もそんなことを聞いて明るい気持ちにはなれません。せっかく自分は『笑いに変える』という才能を神様から授かったわけですから、それを使わない手はないと考えています。自虐ネタでお笑いにしてはいますけど『薬物をやると俺みたいになっちゃいますよ』っていうメッセージですから。反面教師にしていただければうれしいです」 -田代さんが薬物依存症に関して発するメッセージは、他の人より影響力が大きいと思いますが、どのようにお考えですか? 「ダルクの創設者で、今はお亡くなりになってしまった近藤恒夫さんに『お前の功績はでかい。おまえが捕まるたびに、薬物依存ってそんなにやめられないものなんだというふうに社会の認識が少しずつ変わってきた』と言ってもらいました。そういうつもりではないんですけどね(笑)。でも、結果としてはそうですよね」 ■「いつか鈴木雅之の横で」 公言するのは -田代さんのライブでは、話芸やネタに加え、歌手としてしっかり歌うこともされています。ミュージシャン・田代まさしとして意識していることはありますか。 「『ちゃんと歌うこと」は大切にしています。シャネルズやラッツ&スターのファンだった皆さんにも『いつかシャネルズを再結成してほしいな』と思ってもらえるようなクオリティーで歌っていきたいと思っています」 「高望みせず、なるべく夢を持たないようにとは思っているんですけど、最近はステージでも『鈴木雅之の横で歌うことが夢です』とあえて言わせていただいています。その思いが彼に少しでも届けばという思いがあります。連絡のやり取りこそありますけどね。でも一緒に歌うことは、鈴木雅之が決めることでもなければ、僕が決めることでもありません。先ほども言ったように、世間の風潮が許してくれた時に実現するものだと思っています」 ■依存症克服、田代まさしからの提言 -ネタやトークの中で、ご自身のことをかなりさらけ出している印象です。 「自分をさらけ出すことが薬物をやめるための第一条件なんですよ。これもダルクの教えなんですけど、自分に正直に、うそをつかないということです。なので『まだ薬物をやりたいとは思う。薬物依存はそういうものだから』と正直に言います」 -SNSでは、薬物検査が陰性であることを報告し続けていらっしゃいますね。 「やめ続けている証拠を見せないといけないですよね。口で言うのは簡単ですし、うそもつけてしまいます。もうすぐ保護観察が終わるので、定期検査の義務も終わるんですけど、キットを使って自主的に検査を続けて結果を報告していこうと思います」 -近年、沖縄でも特に高校生の違法薬物使用が問題になっています。田代さんから何か言えることはありますか。 「僕が言うと『おまえが言うな』という話にはなってしまうんですけど、とにかく法律で禁じられているんだからダメなものはダメなんですよ。その一方で、法律で禁じるだけではなくて、実効性のある治療法が必要だとも感じています。欧米の治療法の中には『少しずつ軽い薬物に変えていって最終的にやめる』という方法があります。依存症の人にただ『ダメ。使うな』で終わらせるのではなく、やめるためのノウハウを提唱・活用して、再犯率を下げる仕組み作りも大切だと考えています」
長濱良起