『海に眠るダイヤモンド』宮本信子=土屋太鳳が濃厚? 次々に入れ替わる恋の矢印
衆議院選挙を挟み、1週越しの放送となった日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)第2話。日本の未来を託す選択をせねばと意気込んだ後だからだろうか。高度経済成長期の端島を生きる人たちが、なんだかさらに眩しく見えた。 【写真】『海に眠るダイヤモンド』第2話場面カット(写真27枚) あのころの端島には活気があった。炭鉱は過酷な労働環境ではあるものの、働けば働くほどに得られるものがあるという手応え。狭い島ではあったものの、映画館やビリヤード場のような娯楽施設も充実しており、同好会も盛んだったという。よく働いて、よく遊ぶ。そんな鉄平(神木隆之介)たちのエネルギッシュな生き様と、現代で「だるっ……」が口癖になっている玲央(神木隆之介/1人2役)の無気力な表情を見比べると、「日本はより良くなっているのだろうか?」と疑問に思えてくる。 もちろん、端島での生活は不便な面も多かった。コンクリートで固められた端島には緑がなく、そして真水がない。現代ではレバーをひねればすぐにおいしい飲み水が出るが、端島ではまず船で運ぶ人たちがいて、水を運ぶ女性たちがいた。機械や設備の代わりに人が動いていたのだ。鉱夫住宅の便所が大雨で溢れたと聞けば、「手が空いてるやつ、来い!」と声を掛け合って駆けつける。まだ「月賦の残っているオーブンが濡れてしまう」というピンチを聞きつければ、壊れないようにみんなで力を合わせて一緒に運ぶ。人と人とが助け合わなければ生きていけない生活は、それだけ1人ひとりが求められているのだと実感できる環境でもあったのだ。 とはいえ、そんなふうに協力し合える間柄になるには、それぞれの事情が筒抜けになる煩わしさもついてくるから、現代人からすると賛否が分かれるところかもしれない。鉄平の兄・進平(斎藤工)は、2年前の台風で妻が海に流されてしまった過去を持つ。海底に眠るかつて植物だった石炭たち。その「死骸の上に立っている」と言う進平が話していたのは、戦争で傷ついた自分を癒やしてくれた妻の死を思っているようにも見えた。生き続けていくために、妻との思い出を燃料にしているのだろう。そんな妻の幻影を求めながら家族用の部屋に住む進平を、島の人たちはそっとしている。積極的に何かをしないということもまた、人と人との支え合いになっているのだと感じた。 大切な人を亡くすと、人はそこからなかなか時計を進めることができなくなってしまう。百合子(土屋太鳳)の母・寿美子(山本未來)もまたその1人に見えた。激しい台風を前にしてもなお神に祈りを捧げる母に向かって、百合子は「浦上の上にだってピカは落ちたんだよ」と言い放った。あの長崎に落とされた原爆で、浦上天主堂エリアではおよそ1万人の信徒が亡くなっているという。そして、おそらく百合子の姉をあの原爆で亡くしたのではないだろうか。どんなに神に祈りを捧げていても、そんな悲劇に見舞われる理不尽さに、百合子は我慢ならなかったのではないか。 戦争、災害、事故など、誰にも避けられなかった大切な人の死を前に、亡くなった人を偲ぶのと同時に、残された側の苦しさにも胸が詰まる。いっそ消えて思われる側になりたかったというのは、綺麗事では済まされない現実を生きる人びとの本音だと思うのだ。大事な姉を失っただけでなく、大好きだった母まで壊れてしまった。それでも生きていかなければならない百合子が、思わずつぶやいた「消えたい」の言葉。だが、それを聞いた鉄平は百合子のことが「好きだった」と返す。やさぐれていたという百合子が、どれだけ自分にとっては魅力的だったか。人はそこにいて、誰かと関わるだけで、相手の心を動かすことができる。そうして、お互いの人生を複雑に色づけているのだ。つい、広い世界を前にすると自分などいてもいなくても関係なく動いていくものだと思ってしまうが、閉じられた空間の端島だとわかりやすく見えてくる。「百合子が思ってるよりも、みんなに大切にされてる。神様にも」と声をかけた鉄平。 そんな2人の会話からは、いづみが回想した「あれは何角関係だったんだろう」という彼らの恋模様も垣間見ることもできた。鉄平が大学生時代、百合子に想いを寄せていたのは百合子本人も気づくほどのバレバレ具合だった。そして「だから賢将(清水尋也)を選んだの。私のことを好きな人となんて、いいかげんな気持ちで付き合えないもの」という意味深な発言も飛び出す。真剣な想いがあるからこそ付き合えない。それは「本当に好きな子とは手も繋げない」という賢将と似た者同士な匂いがする言葉だった。 スクエアダンスで朝子(杉咲花)と手を繋ぐことに躊躇したところから、賢将の本命は朝子なのだろう。台風のときに朝子の店に駆けつけたときもコッペパンが好きだという話をしながら、「(朝子のことが)好きだ」という意味を含んでいるようにも聞こえてならなかった。しかし、口では「オープンな関係」とは言いながら、仮にも恋人である賢将がピュアな感情を向ける朝子に、百合子が面白くないと感じるのは複雑な女心といったところか。しかも、朝子の想い人は、自分に気があった鉄平ということもあり、ちょっぴり意地悪をしてきたのだろう。 だが今、鉄平が夢中になっているのはリナ(池田エライザ)だ。まさにスクエアダンスのように次々に入れ替わる恋の矢印。選ばなかったからといって、そこに何もなかったということとイコールではない。大事な想いこそ語られないこともある。そんな心の奥底に秘めた誰にも奪うことのできない気持ちを想像しながら、いづみと百合子が水を飲む姿がシンクロする映像に、彼女たちが同一人物なのではという考えも浮かんだ。端島では「どうして家出する場所がないのかしら」と嘆いていた百合子。思えば、いづみが玲央と出会ったのは、家出の最中だった。大事だからこそ、向き合うのが怖い。つい逃げたくなってしまう。もし百合子がいづみなのだとしたら、ある意味で鉄平に対する想いからの家出をし続けてきたのかもしれない……? と、まだまだ解けない謎を追いかける喜びを噛み締めながら、端島のあの日々と現代の日本に想いを馳せる日曜の夜を楽しみたい。
佐藤結衣