【MotoGP】「テストに過ぎない」理論は通用しない? マルク・マルケスのドゥカティ乗り換えが大成功を収めたと言える理由
11月28日、MotoGPはバレンシアで2024年シーズンに向けた最初のテストを実施した。このテストは示唆に富んだモノとなったが、中でもグレシーニでドゥカティのバイクを初めてテストしたマルク・マルケスがひときわ注目を集めている。 【ギャラリー】ドゥカティ陣営に移籍したマルク・マルケス。乗り換えは大成功? 現地時間午前10時からスタートしたテストではドゥカティ・デスモセディチGPでのマルケスの初走行の瞬間を求め、グレシーニのガレージ前に多くのメディアが人だかりをつくった。そして手も凍る寒さの中1時間以上を過ごした後、マルケスがついにコースへと出て行った。 ドゥカティマシンでの初走行は8周にわたって行なわれた。この時マルケスは1分30秒683までタイムを縮め、この時点で3番手となるタイムを記録した。もちろんテストでのタイムはあまり重要とは言えない。しかしこのタイムは11年間ホンダ・RC213Vに乗ってきたライダーがドゥカティのバイクに乗り換えてすぐに出したモノであるにもかかわらず、バレンシアGP決勝での彼のファステストラップにわずか0.2秒のところまで迫るものだったのだ。 さらに目を引いたのは、最初の走行を終えて戻ってきたマルケスが、椅子に座ってヘルメットを脱いだ際に見せた笑顔だろう。あの瞬間、マルケスは内心安堵していたのか? その答えはホンダとの契約が残る今の彼が語ることはできない。しかしグレシーニのスタッフの言葉から、それを察することはできる。 「すばらしい1日だった」 そう語るのはグレシーニのスポーティングディレクターを務める、ミケーレ・マシーニだ。 「大事なのは気持ちなんだ。気持ちが、雰囲気がそこにはあった。我々は長いシーズンで少し疲れていたが、今日のテストを終えて2024年の開始が待ちきれないよ」 「契約については皆も知っているだろう。私もこれ以上は言えないが、今日のタイムシートが物語っていると思う」 実際、マシーニが語るようにタイムシートはドゥカティに乗ったマルケスの可能性を悠然と物語っている。全部で49周を走行したマルケスは、走るごとにタイムを縮め、残り1時間半の終盤に1分29秒460をマーク。この時点のトップタイムであり、この時メディアセンターはどよめきが広がった。この時の室内には、タイトル争いが繰り広げられた最終戦と同じか、それ以上の熱と感情が渦巻いていた。 最終的にマルケスはこのタイムを自己ベストとしてテストを終えた。トップタイムを記録したマーベリック・ビニャーレス(アプリリア)からは0.171秒差、そしてドゥカティ陣営でトップとなったマルコ・ベッツェッキ(VR46)との差はわずか0.093秒だった。 バレンシアテストでのマルケスの走りでは、もうひとつ見るべき点がある。それは彼が一度も転倒せずにテストを終えたことだ。 これまでホンダで転倒に転倒を重ねてきたマルケスが転倒しなかったという結果はふたつの事実を示唆している。ひとつはドゥカティのマシンのフロントエンドの感触が良好なこと、そしてもうひとつはマルケスが本当に限界までプッシュしていなかったということだ。特にマルケスが限界まで攻めていなかったという点は、ライバルたちを冬の間悩ませることになるだろう。 もちろん、バレンシアGPを通じてラバーがのり、コースコンディションが改善されていることも事実だ。そしてテストプランはそれぞれ異なり、全員がタイムアタックをしている訳でも無い。”テストは単なるテスト”であり、ベッツェッキも一般的にはバレンシアテストのタイムに「意味はない」と語っている。 そのため、マルケスのドゥカティ初ライドを評価するのは難しい。しかし、このテストがマルケスにとって重要だったと考えられる指標は存在する。 まずは他メーカーからドゥカティに移ってきたライダーの事例だ。2010年にヤマハから移籍したバレンティーノ・ロッシの事例(当時と今ではデスモセディチGPは全く異なるバイクとなっているが)では、トップから1.8秒差。ドゥカティでの2年間では表彰台はわずか3回で、後に移籍は失敗だったと認めることになる。 ふたつ目はホルヘ・ロレンソの事例だ。2016年のバレンシアテストで、彼はロッシよりはポジティブにテストを進め、2日のセッション終了時にはトップから0.769秒差。2017年のドゥカティデビューイヤーにロレンソは3回表彰台を獲得し、2018年には3勝を挙げている。