琴奨菊の初Vを支えたスポーツ科学の力
琴奨菊の得意の戦法は、左を差し、右まわしをつかんで、一気にがぶり寄せる相撲である。ここでも琴奨菊は相手の反撃を封じ、自分のパワーを最大現に伝えるため、体を密着させ、できる限り相手力士との体の接地面を増やすという科学に基いた戦法を極めた。 「気力の充実」を重要視している琴奨菊は、メンタル面の強化にも、スポーツ科学の力を借りた。その象徴が、「琴バウアー」と命名されたルーティンである。 2011年の名古屋場所で、大関昇進を逃したことがきっかけとなり、弱点だったメンタルを強化するため、某局の番組企画もあってメンタルトレーニングの専門家である東海大体育学部の高妻容一・教授の教えを受けた。高妻教授は、メジャーリーグで活躍していたイチローが打席に入る前にとる一連の「侍ポーズ」に意味があることを教え、集中力を高め、平常心を維持するためのひとつの手段として、ルーティンの導入を薦めた。あの胸を後ろに倒れるかというほど反らせてから塩を高々と撒くという「菊バウアー」が誕生した。 ラグビーの日本代表の五郎丸がプレースキックを蹴る際、集中力を高めるために「五郎丸ポーズ」と呼ばれるルーティンを行うことが有名になったが、「菊バウアー」も勝利のためのルーティンだったのだ。 しかも大関のルーティンは「菊バウアー」だけでなく、起床から取り組み、国技館を出るまで、100個以上に渡って決められているという。またユーチューブの動画なども、前夜の気持ちを落ち着かせるために活用した。 「相撲女子」が出てくるなど、八百長問題で失った人気を徐々に回復させていた角界が、日本生まれの遅咲き大関の優勝で、再び熱を帯び始めた。 「大事なのは、この次」 3月の大阪場所では綱取りがかかる。1998年の名古屋場所の若乃花以来となる日本人横綱の可能性も出てきた。