築地・豊洲市場だけではない 生き残りをかけて変化を模索する卸売市場
“中央卸売市場”と“地方卸売市場”の違いとは
中央卸売市場と地方卸売市場は、“中央”と“地方”という言葉のイメージから地方卸売市場は地方都市に開設されているように感じてしまいますが、それは大きな誤りです。中央卸売市場は地方都市にも多く点在していますし、東京都内にも地方卸売市場はあります。中央卸売市場と地方卸売市場は、どういった違いがあるのでしょうか? 農水省食料産業局食品流通課の担当者は、こう説明します。 「中央卸売市場の開設者は、都道府県、人口20万人以上の市に限定されています。一方、地方卸売市場には開設者は制限が緩く、知事が許可すれば民間企業や農協・漁協といった組合、第3セクターでも開設することが可能です」。 実は農水省が地方卸売市場への転換を促す以前から、全国に点在する中央卸売市場は地方卸売市場への転換を模索していました。2006(平成18)年、北海道釧路市と大分県大分市は全国に先駆けて中央卸売市場を地方卸売市場に転換させています。その後も、中央卸売市場は続々と地方卸売市場へと転換していきました。2014(平成26)年には千葉県千葉市と船橋市にある2つの中央卸売市場が地方卸売市場へと転換しています。
取扱金額が減少 より自由な運営ができる地方卸売市場へ転換
なかには地方卸売市場への転換のみならず、民営化に踏み切った卸売市場もあります。なぜ、中央卸売市場が地方卸売市場へと転換しているのでしょうか? 「ピーク時に比べると、青果や水産物の市場経由率が下がったこと、なによりも卸売市場の取扱金額が減少していることが大きな要因です。地方卸売市場は中央卸売市場と比べて規制が少ないために、より自由な運営ができるようになっています。そうしたことから、経営の自由度を高めるために中央卸売市場が地方卸売市場へと転換しているのです」(農水省食料産業局食品流通課)。
民営化に踏み切った湘南藤沢卸売市場 作業合理化などで黒字に
神奈川県藤沢市にある湘南藤沢卸売市場は、1981(昭和56)年に開設された中央卸売市場です。中央卸売市場の地方卸売市場への転換を盛り込んだ第9次卸売市場整備基本計画が出されるより前、2007(平成19)年に湘南藤沢卸売市場は地方卸売市場へと転換しました。 なにより湘南藤沢卸売市場が大きく注目されることになったきっかけは、2012(平成24)年に民営化にまで踏み切ったことです。それまでにも民営化している卸売市場はありましたが、中央卸売市場が民営化までしたのは、湘南藤沢卸売市場が日本初です。 現在、湘南藤沢卸売市場の土地は藤沢市が保有し、卸売市場の運営は開設者である湘南青果株式会社という民間事業者が担っています。湘南青果は卸売大手の横浜丸中ホールディングスのグループ企業です。横浜丸中ホールディングス湘南管理部の佐藤雅之部長は、こう話します。 「開設者と卸売業者は別々の企業ですが、湘南藤沢卸売市場が民営化したことで、丸中グループが一体的に運営と管理を兼ねることになりました。そうしたことで、流通のネットワークが強化されるとともに事務作業の合理化も進んだのです。その結果、去年から湘南藤沢卸売市場は黒字化しています」。 中央卸売市場には、その日の取引価格を開設者である自治体に報告する義務が課せられています。一方、地方卸売市場にはそうした義務がありません。そのため、事務負担が軽減されているのです。また、近所の量販店などと情報交換会をして活性化に取り組む地方卸売市場も出てきています。 地方卸売市場の新たな取り組みは、まだ緒に就いたばかりです。卸売市場の新たな形を模索する動きは、これから本格化していくでしょう。 「築地・豊洲は東京都の問題で私には無関係」という思いを抱いている方もいるかもしれません。しかし、今や全国の卸売市場が変化を求められています。築地・豊洲だけの問題ではなくなってきているのです。 小川裕夫=フリーランスライター