極貧民から大金持ち、古きも新しきも混在する 何でもありの都市ムンバイ
僕がインドに移って、はじめの数年間を過ごしたのがムンバイだ。 インド一の商業都市で、南北に伸びる島上にあるため、インドのマンハッタンなどと形容されることもあったが、実際にはその差は歴然。ニューヨークに追いつくのはまだ10年や20年はかかるように思われた。それでも超過密化した人口と、24時間喧騒に満ちた猥雑さは世界でも類を見ないほどで、街の発する凝縮されたエネルギーにはいつも圧倒されっぱなしだった。 「出身地や言語、カーストを問わず、そして世界有数の金持ちから、路上暮らしの極貧民までが同じエリアに混在するのはムンバイだけさ」 ムンバイ生まれの友人がよく口にしていたものだ。人だけでなく、その風景も多種多様。トタン屋根の掘っ建て小屋が集まるスラムの真横にガラス張りの近代的オフィスビルが建ち、英国領時代の名残である、チャトラパチ・シバジ駅をはじめとするビクトリア様式の優雅な建物も多く残る。
僕にとってムンバイは、まさに「ラブ&ヘイト(大好きだけど大嫌い)」な町だった。生活する上では、騒音や渋滞、ゴミだらけの汚さに閉口させられっぱなしで、最低の場所。反面、気さくな人々や、何年住んでいても外へ出るたびに新たな発見がある、カメラマンにとっては天国のような町だった。 僕はこの町から、インドの洗礼を受けたのだ。 (2013年12月/2014年10月撮影) ※この記事はフォトジャーナル<インドの旅>- 高橋邦典 第51回」の一部を抜粋したものです。