【訂正】吉岡秀隆の出演作はなぜシリーズ化されるのか? 『Dr.コトー診療所』などから考える
吉岡秀隆が主演を務める映画『Dr.コトー診療所』が地上波放送される。コトー先生を演じる吉岡といえば、2023年10月期に日本テレビ系で放送された『コタツがない家』でのうだつのあがらない夫役が話題になっていた。ダメ男からコトー先生のような人格者まで、幅広く振り切った演技を見せる吉岡の魅力について触れたい。 【写真】映画『Dr.コトー診療所』自転車に乗る吉岡秀隆 現在53歳の吉岡秀隆は、ゆったりとした優しい口調と繊細な演技が特徴的で、若い頃は思い悩む等身大の青年役を数多く演じ、大人になってからも人間味ある役者として愛されている。かつての吉岡といえば、『北の国から』(フジテレビ系)の純や、映画『男はつらいよ』での寅さんの甥っ子の満男などのイメージが強く、大人になっても活躍をしている感覚を持った人も多いかと思われる。だが時代は変わり、今や吉岡の子役時代を知らない世代が増えたこと、バラエティ番組などにはほぼ出演せず、『Dr.コトー』や『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズがヒットしたこともあり、どこか掴みどころのない演技派役者という印象を抱く人も多いのではないだろうか。 多くの作品がシリーズ化されるなど、なぜここまで吉岡の演技に視聴者を虜にするのか考えると、無理に飾らない演技が役柄の内面性を引き出し、それが優しさや人間味を感じるところにある。そして何より吸い込まれるような独特な目力。『北の国から』の成功も、子役にして、どこかネガティブで、怒り、悲しみ、時には親を憐れんでいるような引いた眼差し。演技力というものを超越したこの目力で、とつとつと囁くように語ってくる、この吸い込まれるような独特の世界観が他の役者にはない魅力だ。 それは、舞台や学校で演技を学んできたものではなく、子役時代に、山田洋次、倉本聰、黒澤明といった、映画・ドラマ界の巨匠たちのもとで育ち、『男はつらいよ』の渥美清や『北の国から』の田中邦衛といった名優たちの側でずっと芝居を見てきたからだろう。渥美の演技は、テンポの良い台詞回しと表情の豊かさで笑わすが、喜劇役者特有の言葉を発さない時の全身から伝わってくる哀愁と奥深さ。田中邦衛も、口下手で不器用な男だからこそ全身から伝わってくる感情といった、人としての奥深さを感じる演技を持つ。吉岡の飾らない演技とキャラクター性は、名優たちの血が脈々と流れていると感じる。こうした雰囲気のある演技ができると、主人公のキャラクター性だけを演じるのではなく、主人公の人生を背負っているような、演技を超えたものを感じさせる。 2023年11月3日放送の『ファミリーヒストリー』(NHK総合)に出演した際に吉岡は、「今も役者には向いてないなと思います」と吐露している。その理由は、「子役時代からとことん役を調べて役に挑んでいて、役をなかなか器用に演じることができない」と番組で紹介されていた。そのような役へ対する姿勢が『Dr.コトー』で患者のために尽くす人間臭い医者役としてガッチリとハマった理由なのではないか。 映画『Dr.コトー診療所』は、コトーが志木那島の診療所に赴任してから19年、ドラマ終了から16年後の話。一人の医者の自己犠牲の上に成り立っている島の医療への問題提起がこのドラマの一貫したテーマでもあるが、良くも悪くも責任感の頑固さが今回の物語の焦点になってくる。19年の歴史を重ね、コトーが一身に背負ってきたものが、これからは分け合える人がいる、それを気づかされる作品だ。ホンワカした演技の吉岡だからこそ、どうしようもない運命に追い込まれた時の、運命と覚悟を感じる極限の演技が神の領域の達した演技を見せている。 ※記事初出時、本文に誤りがありました。以下訂正の上、お詫び申し上げます。(2024年1月4日13:20、リアルサウンド編集部) 誤:古志木島 正:志木那島
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