今回の“エクスペンダブルズ”は“エ栗(クリ)ペンダブルズ”なんですよ 【みうらじゅんの映画チラシ放談】『エクスペンダブルズ ニューブラッド』『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』
『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』
――2枚目のチラシは、オーストラリアのホラー映画『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』です。 みうら これはチラシからはどんな映画かまったく分かりませんがね、この手が“耳なし芳一”みたいになってるところに注目したいと思ったんですよ。 耳なし芳一の場合はね、体中にお経を書きますよね。それで魔のものを近づけない。 悪魔祓いがニューヨークの街角に立って、「あなたは心に悪魔を飼ってますね」って言い当てる。それが話の始めです。それで除霊をし、口から悪魔を出してくれるんです。 マスコミで話題となって、連日、悪魔祓いの前には「私も心に悪魔が住んでいて、最近とても具合が悪いので除霊してください」ってお願いするんです。すると悪魔祓いはそのお経を書いた手で、ご婦人の口から悪魔を飛び出させようとする。しかし、強力な悪魔です。悪魔祓いが悪魔となる。ミイラ取りがミイラになる、そんなお話だと思います! ――確かにオカルトホラーではありそうですね。 みうら チラシの裏には「手を握る、唱える」って書いてありますね。まったく僕の予想どおりだと思いますよ。 問題は、チラシでちょっと見えてる手が、誰の手なのかっていうことですけどね? ――チラシの写真だと、テーブルの上に置いてあるみたいですね。 みうら そんなグッズがもう出回ってるんですかねぇ。悪魔とハンド・イン・ハンドできるグッズとしてね(笑)。この手をズルズルっと引っ張っていくとね、床から悪魔が出てくるシステムかもしれません。 チラシ写真だと黄色いガウンの女性の周りに人が集まって見物してますが、これは話題のグッズを特集するテレビ番組なんじゃないでしょうか? で、この手を握って、唱えて、エロイムエッサイム的に悪魔を呼び寄せて、招き入れて、自分に乗り移らせる。 で、この女性がヘラヘラ笑ってる理由は、悪魔が入ったところなんです。で、見物に集まってる連中は、ホラーものにつきものの無軌道な若者たちです。どえらい目に遭わさせるに違いありません。 ――オカルトショー的なものをやってるってことですね。 みうら 昔、日本で言えば日テレが得意とした番組でしょう(笑)。いずれ、この黄色いガウンを来た人に悪魔が乗り移って大暴れ、放送事故になりますよ。 ――この真ん中の写真はカンガルーですか? 血のついた動物が写ってるんですが。 みうら カンガルーですね。そこはオーストラリア映画だということを強調したいんでしょうね。カンガルーは降霊術には必需品なのかもしれないです。 昔、知り合いがオーストラリアに行くと必ず、土産でカンガルーの股間にある袋で作った財布をくれたもんですよ。 ――知らないです。どんな財布ですか? みうら 何というか、玉袋の革の部分にチャックがついていましてね、そこにコインが入れられるというね。今では考えられない財布でしたね。 ――それは本物のカンガルーの玉袋なんですか? みうら いや、よく分かりませんが、友人はそう言ってくれたもんです。 ――「カンガルー/玉袋/お土産」でネット検索すると、それっぽいものがまだ売ってるみたいですね。 みうら え? よくないですよ、それ。何の話でしたっけ? 『トーク・トゥー・ミー』でしたね。映画館の売店では、お経入りハンドだけでお願いします。 取材・文:村山章 (C)2022 Ex4 Productions, Inc. (C)2022 Talk To Me Holdings Pty Ltd, Adelaide Film Festival, Screen Australia 『エクスペンダブルズ ニューブラッド』上映中 『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』上映中 ■みうらじゅんプロフィール 1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。