公的調査では見えてこない、子どもの不登校の本当の理由
<小中学生の不登校の要因について、文科省調査と民間調査の間には大きな違いがある>
新学期が始まったが、子どもが学校に行くのを渋る家庭もあったのではないだろうか。いつの時代もそうだが、特に近年では、学校生活に不適応を起こす子どもが増えている。 【図表】小中学生の不登校の要因(文科省調査と民間調査の違い) それは、不登校の児童生徒数の推移で見て取れる。不登校の児童生徒とは、「何らかの心理的、情緒的、身体的、あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいはしたくともできない状況にある者(病気や経済的理由、新型コロナウイルスの感染回避による者を除く)」をいう(文科省)。統計では、こうした理由により年度内に30日以上休んだ者が、不登校児童生徒として計上されている。 この数は、平成初頭の1991年度からの推移が分かる。<図1>は、小・中学校の不登校児童生徒数がどう変わってきたかを示したものだ。 <図1> 不登校児の数は1991年度では6万7000人だったが、世紀が変わった2000年度では13万4000人にまで倍増した。平成不況の深刻化により、親が失職するなどして、情緒が不安定な子が増えたためかもしれない。 その後は微減するものの、2012年度をボトムに増加に転じる。2017年度以降は「うなぎ登り」とも言える推移で、毎年1万人、2万人と増え、2021年度から22年度にかけては5万4000人も増加した。2022年度は29万9000人で、「不登校児30万人の時代」という見出しが新聞に踊った。 スマホが子どもにも行き渡るようになった時期と重なるが、夜遅くまでSNSやゲームに興じ、朝起きるのが辛くなったとか、趣向を凝らした動画で知識を得られるので学校に行くインセンティブが薄れたとか、要因はいろいろ考えられる。インターネット上で創作物を発信して、普通のサラリーマン以上の収入を得る生徒だっている。学校に行くのは月に数回。親や教師も公認だ。 こうした生徒は、学校の側にすれば「無気力(怠惰)」と映るのかもしれない。文科省の調査(学校回答に基づく)で小・中学生の不登校の要因をみると、最も多いのは「無気力・不安」で全体の50.9%を占める。 しかしながら、同じ選択肢を用意して当事者に尋ねてみると、回答の分布はかなり違っている。小・中学生の不登校の要因について、文科省と民間団体の調査結果を並べてみると<表1>のようになる。 <表1> 文科省調査では「無気力・不安」が50.9%とダントツで多いが、不登校児の保護者を対象とした民間調査では12.8%でしかない。「教員との関係をめぐる問題」は、学校回答では1.8%だが、保護者回答では15.8%。 この表ではパーセンテージの差が大きい順に回答を並べていて、上にあるのは「学校<保護者」、下にあるのは「学校>保護者」の差が顕著であることを意味する。学校側は当人の性向や親の問題と考えているのに対し、当事者の側は学校の問題、ないしはいずれにも該当しない、もっと深い要因と考えているようだ。 政策立案の参考にされるのは学校回答のほうで、不登校対策として「当人の生活習慣の改善」「心理カウンセリングの充実」といったことが提言されるが、学校の在り方も問わねばならない。かといって、現場の教員に「自分の行いに自覚的であれ」とか「子どもと血の通った関係を作れ」とか説教を垂れるのはいただけない。 ■時代の変化についていけない学校 社会はすごい速さで変わっているが、学校はそれについていきにくい。時代錯誤の校則もはびこっていて、教員はそれを守らせる番人としての役割を負わされ、生徒との軋轢を生じさせている。多忙を極めている状況では、子どもと血の通った関係を作ろうにも作れない。まずは、基底の部分を見直すことだ。 もっと大きく言うと、社会の情報化が進む中、知識を授ける殿堂としての学校の立ち位置は揺らいでいる。この点が認識されたためか、不登校児への支援の最終目標は「学校に来させること」ではなく「当人の社会的自立」であると、公的文書にも明記されるようになった。そのための手段は多様であって、学校外の機関(フリースクール等)での学習や、インターネットを使った自学自習も積極的に評価されることとなった。 令和の時代の教育(学び)は、学校の教室という四角い空間だけで行われるものではない。 <資料:文部科学省『児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査』(2022年度)、 信州居場所・フリースクール運営者交流会『不登校(傾向を含む)実態調査』(2023年)>
舞田敏彦(教育社会学者)