中国は、頼清徳・台湾総統就任演説の「ここ」にこれほどまで激しく反発した
「独立」の言葉は使わなかったが
今月20日、台湾の頼清徳新総統は就任演説を行った。自らのことを「現実的な台湾独立仕事人」だと称した頼氏は、いわば筋金いりの「台湾独立派」だと一般的に認知されているが、今後の4年間、特に中国との関係性に関して彼はどのような方向性を目指していくのか。このことは台湾人と国際社会の大きな関心事となっており、それを端的に示す就任演説の中身は当然、内外の注目を集めた。 【写真】中国人民解放軍は「習近平ご夫妻の私兵部隊」となるのか 演説の全文を丹念に読むと、概ねバランスの取れたものであると評価できよう。その中で頼総統は、自らの信念としての「台湾独立」に対する言及を避けてそれを封印しておきながら、「民衆主義と自由を台湾は譲らない」、「台湾は中国に隷属しない」と強く主張し、事実上の主権国家としての台湾の立場を貫いた。その一方、彼はまた、台湾海峡の平和の重要性を強調し、そのためには対中関係の「現状維持」を表明した。 こうしてみると、頼総統は蔡英文前総統の対中穏健路線を概ね継承していることがよく分かるが、その一方、4年前に蔡氏が2回目の総統就任に際して行った「蔡英文版就任演説」と比べてみれば、頼氏の就任演説は、「対中強硬派」の「頼清徳色」を明確に打ち出したものであると見て良い。 まず注目すべき点は、前回の「蔡英文演説」にはなかったものとして、頼総統は次のようなことを口にした。彼は、「中国の軍事行動とグレーゾーンの威嚇が世界の平和と安定に最大の戦略的挑戦とみられている」と述べ、敢然と中国の覇権主義戦略を批判したのである。蔡前総統を含めて台湾の指導者は今まで、中台関係の枠組みを超えてグローバル的な視野から中国の国際戦略や政策を批判することはあまりないが、頼総統はある意味では一線を超えて、中国が台湾にとってだけでなく世界全体にとっての脅威であると訴えた。 そしてその延長線において頼総統はさらに、「第一列島線」に位置する台湾の地政学的重要性を強調し、いわば「価値観外交」の展開を通して「民主主義共同体」を形成し、持って「世界の平和と安定」を守る決意を示した。つまり台湾は単に、諸国からの支援を受けて台湾自身を守っていくのではなく、むしろ独自の戦略的地位を占める民主主義陣営の一員として、諸国と連携して中国の脅威から世界の平和と安定を守るために積極的な役割を果たしていくことを表明した。 それは実に画期的なことであって、台湾が「中国封じ込め」の国際戦略に参加していくことの意思表明であるとも理解できよう。