「家電王国ニッポン」はどこへ?欧州最大の家電見本市から消える日本メーカー、業界リーダーの盛衰
「AI」と「サステナビリティ」が今回の2大展示テーマに
欧州の家電市場における日本メーカーの凋落はこれまで説明した通りだが、今回のIFAに展示された家電製品についていえば「AI(人工知能)」と「サステナビリティ」の2つが大きなテーマだった。2022年11月に米オープンAIが生成AIの「ChatGPT」を発表して以来、テキストや音声でAIを操る動きが加速している。家電分野では以前からアマゾン・ドット・コムの「Alexa(アレクサ)」やグーグルの音声認識技術などを導入する動きが進んでいたが、そこに生成AIを取り込もうという動きだ。さらに家電同士をネットワークでつなぎ、AIで制御しようという試みも加速している。 そうした取り組みをリードしているのが韓国のサムスン電子やLG電子で、サムスンは独自の音声認識技術「Bixby(ビックスビー)」にAIを活用して家の中の家電製品をすべて音声で操れるようにした。また見張り機能や映像表示機能を持ち自動で動き回れるペットロボットの「Ballie(ボーリー)」を投入する一方、家庭内の電気製品をネットワークでつなぐ「SmartThings(スマートシングス)」の普及に力を入れようとしている。これまでのスマートフォン中心の家電の進化に加え、白物家電が生成AIの登場によって新たに生まれ変わろうとしている。
「修理する権利」が欧州家電の目指すべき新しい方向に
サステナビリティに関していえば、欧州で今、注目されているのが「Right to Repair(修理する権利)」の法制化の流れだ。家電製品を使い捨てにせず、修理することで長く使おうという動きで、それに敏感に反応したドイツの老舗メーカー、ミーレ(Miele)は壊れた部品を簡単に取り換えられるように組み上げた掃除機を発表した。創業者一族出身のラインハード・ジンカン代表取締役は「モノを大事に使えるようにするサステナビリティ戦略こそがメーカーの信頼につながる」と強調する。 環境対応に熱心な日本のパナソニックも「カーボンニュートラリティ」と「サーキュラーエコノミー」を経営課題に掲げ、新たに「プロダクト・アズ・ア・サービス(PaaS)」という戦略を打ち出した。壊れた製品をメーカーが引き取り、必要な修理をして消費者に戻し、新たな保証をつけるという内容だ。パナソニック・マーケティング・ヨーロッパの片山英樹社長は「ウクライナやパレスチナの問題を受け、欧州ではエネルギーやサプライチェーンのコストが上がっており、人々の間に家電製品を大事に使おうという流れが広がっている」と述べ、そうした戦略を導入した背景を解説する。 修理する権利については主催者であるIFAマネジメントのリントナーCEOも「家電業界全体が取り組まねばならない大きな課題だ」と指摘する。しかし、容易に修理できるようにするには製造コストが上がるし、勝手に修理されれば安全性の問題も生じることから「ポリティカル(政治的)な要素も見過ごしてはならない」という。欧州全体が一気にその方向に向かうかどうかはわかないが「IFAとしても真剣に取り組んでいく」と語った。 今回は欧州の家電市場における日本メーカーの復権を期待しつつ会場に足を運んだが、そうしたシナリオはもはや遠のいたというのが残念ながら現地取材から得られた感想だ。ソニーは家電見本市のIFAへの出展はとりやめたが、IFAが閉幕した3日後にオランダのアムスデルダムで開かれる国際放送機器展の「IBC2024」には出展するという。もはや一般消費者向けの家電製品は韓国や中国、トルコのメーカーに任せ、自らはプロフェッショナルな分野に専念していくというメッセージともとれるが、かつて「家電王国ニッポン」の名をほしいままにした時代を知る筆者としては、そうした時代の変遷にいくばくかの残念さと寂しさを禁じ得なかった。
関口和一