クリエイティブを尊重し、秀作を次々発表するA24。記録更新のヒット『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』へ連なる功績
現在進行の作品を追いかけている映画ファンで、A24の名を知らない方はいないだろう。2012年の創設以来、秀作を次々と送り出し、あっという間にハリウッド注視のスタジオに成長したニューヨークの映画会社。2016年の『ムーンライト』に続き、2022年の『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』で2度目のアカデミー作品賞を受賞し、さらに注目度を高めながら、現在も商業主義に囚われず、質的に優れた作品を放ち続けている。 【写真を見る】想像を絶する恐怖…少女を待ち受ける、残酷な運命とは そのなかでも注目すべき最新作が、A24ホラー史上最高の興行成績を上げた『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』(12月22日公開)だ。わずか450万ドルで製作された同作は2023年の米サンダンス映画祭で観客のみならず、多くのクリエイターたちからも称賛をもって迎えられ、A24の配給を取りつけることに成功。結果、『ミッドサマー』(19)を上回る9100万ドル超えの世界興収を上げている。そんな『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』の公開を前に、A24作品の魅力を改めて振り返ってみよう。 ■クリエイターファーストで、フィルムメーカーに最大限の自由を! A24の映画は基本的にローコストで、製作費が1000万ドルを超えることは稀。1億ドル超えの製作費が当たり前となっているハリウッド大作と比べても、その差は歴然としている。製作費を抑える代わりに、フィルムメーカーには最大限の自由を与える。A24のそんなインディーズ・スタイルに共鳴した監督も少なくない。ハーモニー・コリンは『スプリング・ブレイカーズ』(12)で、ソフィア・コッポラは『ブリングリング』(13)で、ジョン・キャメロン・ミッチェルも『パーティで女の子に話しかけるには』(17)で、それぞれ自作の配給を同社に任せた。 製作費を抑える秘訣は、大スターの起用を最小限に抑えること、そして才能を見込んだキャリアの浅い監督を積極的に起用することだ。先述したアカデミー賞作品賞受賞作にしても同様で、『ムーンライト』の製作費はわずか150万ドル。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』は1400万ドルと、A24作品にしては“大作”となったが、これは同作の監督ダニエル・クワンとダニエル・シャイナートが同社のもとで、低予算製作を『スイス・アーミー・マン』(16)をヒットさせた実績を見込まれてのことだ。 ■ハリウッドの規範に囚われない多様さ。ジャンル映画も次々と発表 製作スタイルも自由なら、撮るジャンルも自由。先述した『ムーンライト』に加え、『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』(19)、『ミナリ』(20)、『インスペクション ここで生きる』(22)といった、保守的なメジャースタジオでは敬遠されがちな、複雑なテーマをもった作品に積極的に取り組んでいる。 映画業界では下に見られがちな、ジャンル映画も例外ではない。とりわけ低予算で製作できるホラーはA24の十八番であり、そこから多くの才能が巣立っていった。その代表格はアリ・アスター監督。初長編の悪魔的な儀式を題材にした『へレディタリー/継承』(18)で注目され、さらに閉鎖的な信仰コミュニティの恐怖を描く『ミッドサマー』が世界的に大ヒットを飛ばした。アスター監督の新作『ボーはおそれている』(2024年2月16日公開)も前2作と同様にA24が製作を務めている。 このジャンルの近年の大当たりはタイ・ウェスト監督の『X エックス』(22)だろう。1970年代のスラッシャーホラーにオマージュを捧げながら、血みどろの惨劇を描いた同作は興行的に成功を収め、前日談となる『Pearl パール』(22)も好評を博した。ウェスト監督はA24と組んだこの2作に続くシリーズ第3弾『MaXXXine(原題)』の撮影を終え、現在は急ピッチで編集作業を進めているとのこと。 ■A24がほれ込んだのも納得。『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』の先鋭性 『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』の主人公は、母と死別した悲しみを引きずっている女子高校生ミア(ソフィー・ワイルド)。彼女は気晴らしにSNS上で話題になっている、“憑依”チャレンジに参加する。それは呪物の“手”と握手して、“トーク・トゥ・ミー(話したまえ)”と唱えると、亡くなった人間の霊が憑依するというもの。クラスメイトに囲まれ、半信半疑で試したミアは、この霊的な体験に言い知れぬ興奮を覚えた。級友たちも同様で、憑依コミュニティは異様な盛り上がりを見せる。ところが、親友の弟にミアの母を名乗る霊が取り憑いたことから、このチャレンジは危険な色を帯び始める。 監督を務めたダニー・フィリッポウとマイケル・フィリッポウは31歳の双子監督。約10年前に開設したYouTubeチャンネル「RackaRacka」は世界的な人気を博し、登録者数682万人(2023年12月15日現在)を抱えている。だがいかに人気YouTuberといえども映画に進出したところで秀作が撮れるとは限らないし、映画業界にはYouTuberを下に見る慣習もはびこっている。しかし、フィリッポウ兄弟は配信番組では決して描けない、“映画”を撮りたいと願い続けていた。 『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』を観れば、A24がほれ込んだ、彼らの映画製作への本気度を受け止めることができるに違いない。SNS世代が感じている孤独感を背景に、愛する者に“触れる”ことができない少女の苦悶が物語を動かしていく。“触れる”という行為の意味、そして他人とつながることの意味の問いかけを、本作はホラーというジャンルのなかに落とし込んでいるのだ。 本作の成功を受け、兄弟はA24の製作下で続編『Talk 2 Me』の制作を進行中。さらに、人気ゲーム「ストリートファイター」の最新実写映画化プロジェクトにも抜擢された。A24は現在も新たな才能を発掘し続けているが、まずはその急先鋒であるフィリッポウ兄弟の『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』を見逃すべからず! 文/有馬楽