現代人の「死に方」は昔よりマシなのか…じつは「この20年」でも大きく変わっている「人が死ぬ原因」
長生きという「ぜいたく」
最近では「人生100年時代」と言われる。実際には世界の平均寿命は長い国でも80年代前半どまりだ。しかし世界平均で70歳を超えている。これは人類史を振り返ると驚異的に長い。 『死因の人類史』ではフランスの過去の平均寿命と、現在の世界各国の平均寿命を比べている。 この本が書かれた当時に世界でもっとも平均寿命が低い国のひとつだった西アフリカのシエラレオネ共和国の平均寿命50.1歳にフランスが達したのは1910年(なお2023年のWHO発表では最短は南アフリカの国レソトで50.7歳)。 内戦やテロ、旧ソ連とアメリカの侵攻で負ったダメージによって政府が機能不全に陥り、失敗国家と見なされているアフガニスタンの60.5歳と同じ水準にフランスが達したのは1946年。 イラクの68.9歳の水準には1958年、北朝鮮の70.6歳には1961年、イランの75.5歳には1986年に到達していた。世界最貧国でも現在の平均寿命では、近年豊かになった国々とそれほど見劣りせず、19世紀のどの国よりも健康面では上回っている。 さらに私たちが健康なまま長生きするにはどうしたらいいのかといえば、結局、バランスの良い食事を心がけ、食べ過ぎを避け、適度な運動を心がけ、生活環境や身体を清潔にし、孤独を避け、よく笑い、よく寝る――といった、ほとんど誰でも知っている以上のことは今のところない(知ってはいても実行できない人が多いが)。 『死因の人類史』を読んでいると、人類が寿命を伸ばすためにできる限界まで来ているような気すらしてくる。だが一方で、つい最近まで「酒は百薬の長」と言われていたが今では「一滴も呑まないのが健康上は一番良い」ことが常識に変わったこと、自動車へのシートベルトやエアバッグの義務づけなどの安全対策がここ半世紀で劇的に変化した(昔は技術的には可能なのに実装されていなくて人が死にまくっていた)ことなどもわかる。ということは、今はまだ「常識」になっていないだけで、世の中の死の原因になっている何かがこれからも発見されては対策されていき、人の寿命は生物学的な限界にまで少しずつ近づいていくのかもしれない。