毒を盛られ続けた瀕死の母 汚染されたガンジスを救う方法はただひとつ
毒を盛られた母
夕陽が沈み、夜の帳が下りる頃に渋滞に巻き込まれ、ガンジス川をまたぐ橋の上で立ち往生となった。カメラを持って車を降りる。橋の上の喧騒とは裏腹に、人気の少ない、林の横をゆっくりと流れるガンジスの姿は雄大で美しい。闇の中ではゴミや、汚れた川の色も目に入らないからなおさらだ。 ガンジス川を浄化し、元の姿に戻すことなど現実的に可能なのだろうかと、ふと考えた。たとえ設備を整え、川に流れ込む下水や工場廃液が大幅に削減されても、人々が遺灰や、時には遺体をこの川に流すのをやめるとは思えない。ゴミのポイ捨てや野外排便の習慣がなくなるには長い年月を要するだろうし、洗濯だって、川を使わず、家で行うためには十分な水の供給が必要になる。 インドで「水の男」という異名を持つ男がいる。ラジェンドラ・シンは、国際的にも評価の高い、河川の保護主義者、そしてアクティビストだ。政府と交渉し、貯水システムの構築によって、ラジャスタン州の5つの川を蘇らせ、水不足に陥っていた1000以上の村を救った。「母なる川」と例えられるガンジスの汚染に対する彼の言葉だ。 「これまで我々は、母に毒を持ってきたようなものだ」 ガンジス川を再生したいという願いは、誰もが持っているはずだ。しかし、その実現は政府の力だけでも、市民の努力だけでも叶うことはない。国民すべてが各々の思考を変え、行動しない限り、毒を盛られ続ける母は死を待つのみだ。 (2016年1月撮影)