天体の質量は、どうやって測っている?「あの星は太陽質量の10倍です」と天文学者が言える理由
公転速度と公転周期から公転半径を求める
公転速度と公転周期がわかりましたから、およその公転半径を見積もることができます。 計算の結果、これは約50万キロメートルです。とても大きそうですが、実は、この大きさは、太陽の半径と同程度にすぎません。異常なまでに互いに接近した連星として、このパルサー連星は公転していたのです。 なお、厳密には、その連星パルサーの軌道は楕円形をしているため、学校の試験の答案などでは「楕円軌道の長半径」と書くべきところですが、ここでは、簡単のため「半径」とよんでいます。
ケプラーの第3法則が活躍する!
さて、以前の記事で惑星の運動に関するケプラーの法則を紹介しました。その3番目の法則は 「惑星の公転周期の2乗は、楕円軌道の長半径の3乗に比例する」 というものです。 これは、公転周期、質量、公転半径の三者の間の関係式を与えています。ケプラーの法則は、万有引力の法則を用いて説明できますから、天体の種類によらずに成り立ちます。よって、この連星パルサーにも適用できます。 連星パルサーの公転周期と半径はすでにわかっていますから、ケプラーの第3法則を用いて、その質量を求めることができます。しかし、この場合の質量は、連星パルサーを構成する2個の天体の合計質量です。 では、この2つの星のそれぞれの質量を調べるには、どうすればよいでしょうか。
個々の質量を知るために「一般相対性理論」を使う
ここでも一般相対性理論が大活躍しました。 一般相対性理論の予言は万有引力とは異なります。たとえば、万有引力に対して、惑星は太陽の周りを楕円軌道を描いて運動します。しかし、一般相対性理論では、惑星の軌道は楕円形から少しずれます。 実際、水星の近日点が公転するごとに移動する現象が天文学者によって知られていました。近日点とは、惑星の楕円軌道においていちばん太陽に近い点のことです。完全に楕円軌道ならば、近日点は不動点のはずです。 しかし、一般相対性理論における時空の曲がりによる物体への引力は、ニュートンの万有引力からの予言とは少し違うものでした。この小さな違いのために、惑星の近日点が移動します。 そして、その移動量は一般相対性理論に基づく計算結果と一致しました。 この近日点が移動する現象は、2個の天体の合計質量だけでなく、それら2個の天体の質量の比にも依存します。よって、近日点移動が観測できれば、ケプラーの第3法則と一般相対性理論を合わせることによって、2個の天体の合計質量だけでなく、天体間の質量の比も求めることができます。 これにより個々の天体の質量が推定できるのです。
1974年に発見された連星パルサーの質量は!?
この近日点が移動する現象は、この連星パルサーでも観測されました。 こうして、求められたパルサー単体での質量は、それぞれ太陽質量のおよそ1.4倍だと判明しました。 ---------- ----------
浅田 秀樹(弘前大学 理工学研究科 宇宙物理学研究センター センター長・教授)