スマート#1 詳細データテスト 個性的なデザイン 優れた静粛性 シャシーと操縦系は改善の余地あり
はじめに
ポルシェやオペルの長い歴史を振り返ると、創業当時も今もたいして違わないクルマを作り続けていることがわかるはずだ。ポルシェは相変わらず高級スポーツカーメーカーであり、オペルは中級実用車のブランドのままである。 【写真】写真で見るスマート#1とライバル (16枚) いっぽうで、想定以上の守備範囲拡大を、比較的短期間に行うものもある。スウォッチとメルセデスの頭文字、そしてアートを組み合わせて命名されたブランド、すなわちスマートもそのひとつだ。当初は、大手自動車メーカーとスイスのお手頃ウォッチメーカーが、その腕時計の精神を具現化したシティカーを作るのが目的だった。 GoogleやAppleが証明したように、クルマづくりというのは門外漢の副業としてはタフすぎる。そこでスウォッチは、経験豊富なメルセデスをパートナーに選んだのだ。それでも、クルマづくりの厳しい現実が身に染みたスマートは、徐々に求めていたものとは異なるプロジェクトへと変化しつつあることに気づいた。 やがてスマートは、全面的にメルセデス・ベンツの管轄となり、凝ったミニマムなクルマだけのラインナップから、三菱のメカニズムをベースにしたコンパクトカーのフォーフォーも加えたものへと移行していく。その後は、ジーリーが50%出資する合弁会社となった。 この新体制下で最初の製品である今回の#1は、フォルクスワーゲンID.3やプジョーe-308などと競合するハッチバックEV。中国や韓国のメーカーも参入する競争の熾烈な市場だけに、かつてのフォーフォーが当時得ていた評価以上のものを求められている。
意匠と技術 ★★★★★★★★★☆
ベースとなるのは、ジーリーのサステイナブル・エンジニアリング・アーキテクチャー(SEA)。これは、ボルボEX30やジーリーの高級ブランドであるジーカーで使用され、ある意味ではロータス・エレトレとも関連する。 もちろん、それらのプラットフォームはまったくの同一ではなく、サイズも設計も大きく異なるので、#1とエレトレが同じコンポーネンツで作られているわけではない。しかし、EX30やジーカーXとはかなりの共通点がある。これらはリアに271psのモーターを積むベーシック版と、フロントにもモーターを追加した428psの高性能版が用意される。 総容量66kWhというバッテリーは、それら関連モデルよりやや小さいが、ニッケル・マグネシウム・コバルトという組成は同じ。エントリーモデルは総容量51kWh/実容量49kWhのリン酸鉄・リチウムとなるが、これはボルボでも使用されるものだ。最大充電性能は66kWh版が150kW、51kWh版が130kWだ。 前ストラット/後マルチリンクというサスペンションの仕立ては予想の範疇内だが、フロントよりリアのディスク径が大きいブレーキのセッティングは一般的ではない。これはEVが重いこと、またフロントにより大きいディスクを備える2モーター仕様と部品共用していることが主な理由だ。 メカニズムはジーリー由来だが、エクステリアはメルセデスのテイストが色濃く、V字型の前後ライトをライトバーで繋いだスタイルはEQモデルに似たもの。ただし、メルセデスほどお堅い感じではなく、遊び心が感じられる。シェイプはより丸みを帯び、ベースボールキャップのようなルーフラインや、フレームレスのウインドウ、上反りしたサイドシルなどを備える。 空力を意識した処理も多く、ほとんど開口部がないホイールやボディパネルとツライチのドアハンドルなどを採用。そのわりに0.29というCd値は高めだ。 これは、ボディサイズが一因だろう。スマートは#1をシティSUVと呼ぶが、大きなホイールと低めの地上高はハッチバック的だ。ところが、クプラ・ボーンよりやや短いものの96mmも背が高い。よりSUV的なキア・ニロと比べても、66mm高いのである。