『ダンジョン飯』マルシルは2024年の一般人代表? 昆虫食時代に響くチャレンジ魂
TVアニメ『ダンジョン飯』が1月4日から放送されている。原作は、発行部数の累計が1000万部を超える、九井諒子の大ヒット漫画。ドラゴンに捕食された妹ファリンを救うため、戦士ライオス率いるパーティがダンジョンの奥深くに潜り、大冒険を繰り広げる物語……というよりも、「迷宮内での自給自足」を掲げ、ダンジョンのモンスターを倒しては調理して食べまくる、超変化球のグルメ系作品である。 【写真】『ダンジョン飯』場面カット(多数あり) アニメーションを手がけているのは、『プロメア』(2019年)、『サイバーパンク エッジランナーズ』(2022年)、『グリッドマン ユニバース』(2023年)など、カッティングエッジな作品を次々と世に送り出してきた制作会社、TRIGGER。BUMP OF CHICKEN、緑黄色社会が主題歌を担当し、連続2クール・全26話が放送予定となっている。 ちなみに筆者は10年前に漫画喫茶で『ダンジョン飯』を読んで、脳天をカチ割られるほどの衝撃を受けた人間だ。『包丁人味平』(原作:牛次郎、漫画:ビッグ錠)、『美味しんぼ』(原作:雁屋哲、作画:花咲アキラ)、『クッキングパパ』(うえやまとち)、『味いちもんめ』(原作:あべ善太、作画:倉田よしみ)といった、古典的グルメ漫画しか知らなかった自分には、「グルメ漫画もいよいよここまで来たか!」という驚きがあったのである。 執筆時点でアニメは第3話まで放送されているが、とにかく登場する魔物食がパンチ効きすぎ。第1話は、大サソリと歩き茸の水炊き、人喰い植物のタルト。第2話は、ローストバジリスク、マンドレイクとバジリスクのオムレツ、マンドレイクのかき揚げと大蝙蝠天。そして第3話は、動く鎧の蒸し焼き、焼き動く鎧、動く鎧のドワーフ風炒め、動く鎧のスープの“動く鎧のフルコース”! 小さい頃から「迷宮グルメガイド」を読み耽っていたという主人公ライオスは、モンスターを食べたいという変態的欲求が隠しきれない。その一方で魔法使いのマルシルや鍵士のチルチャックは、モンスターを調理したゲテモノ料理に対して、抵抗感を抱いている。特にマルシルは、インパクト大の見た目からして受け付けられない。 やがて新しくパーティの仲間になったドワーフのセンシが、長年の経験と知恵によって編み出したさまざまな魔物料理を披露。最初はおっかなびっくりだったマルシルも、意外にイケる味であることを発見し、その奥深さに気づいていく……というのが、おおまかな構成だ。 大サソリと歩き茸の水炊きを食べれば「この藻も柔らかくっておいしい!」と感激し、人喰い植物のタルトを口に入れれば「養土型はみずみずしくて甘味がある。消化形は詰まってて味が濃い!」と『美味しんぼ』の栗田ゆう子のようなコメントを繰り出す。勇気を持って自ら食すことで、忌み嫌っていた魔物食への偏見を取り払っていく。そんなプロセスを描いた作品こそが、『ダンジョン飯』なのだ。 ビームコミックスで漫画が連載開始されたのは、2014年。その10年後となる2024年のいま、アニメーションで改めて本作を観直すと、単なるゲテモノ料理コメディではなく、鑑賞者に別の意味を付与する機能があるように感じられる。それは、“昆虫食”のメタファーとしての機能だ。 ■持続可能な次世代の食糧「昆虫食」 今や昆虫食は、世界中で注目されるムーブメント。昆虫食専門の自動販売機が設置され、本格的な昆虫食レストランがオープンし、有名企業もオリジナルの昆虫食に取り組んでいる(無印良品では、コオロギせんべいやコオロギチョコが発売されている)。4年連続で「世界のベストレストラン50」第1位に輝いた名店ノーマ(noma)で、生エビに蟻を乗せた料理が出されたことも話題になった。 昆虫食ブームのきっかけとなったのは、2013年に国際連合食糧農業機関(FAO)が発表した、食品及び飼料における昆虫類の役割に注目した報告書。 その報告書によれば、そもそも我々人間は、甲虫類、ケムシ、ハチ及びアリなど1990種類を超える昆虫類を食しており、さらに ・昆虫類の多くはたん白質及び良質の脂肪を多く含み、カルシウム、鉄分及び亜鉛の量が豊富 ・昆虫の飼育が産業化されれば、いずれヒトの消費に回る魚の供給量が増加する ・昆虫類の疾病がヒトに伝播するとは非常に考えにくい というメリットもあるという。(※)持続可能な次世代の食糧……SDGsな観点からも注目されているのが昆虫食なのだ。そう考えると『ダンジョン飯』は、ファンタジーという装いで新しい食のあり方を提示した、とーってもSDGsライクな、「持続可能なアニメーション作品」なのではないか。 この作品が素晴らしいのは、「一見食材には適さないように思えるものでも、調理法ひとつで美味しい料理になるのだ」という、無限の可能性を教えてくれること。大サソリの調理に手こずるライオスを見かねて、センシはアドバイスをしつつ実演してみせる。 「ハサミ、頭、足、尾を必ず落とす。尾は腹を下す。身にも切れ込みを入れておく。熱も通りやすく、ダシも出て、鍋全体が美味くなる。食べやすいしな。内臓も簡単に取っておく。苦いし歯触りが良くない」 歩きキノコも同様だ。 「尻と表面3センチメートル分捨てる。足は美味いので全て入れる。独特ないい匂いがするだろう?」 生態系としてのモンスターを解剖学的に研究し尽くすことで、必要になるであろう下準備と、適切であろう調理方法が提示される。筆者はそこに、単なるゲテモノ料理の悪趣味ショウではなく、未来への食料=昆虫食の提言という、崇高な理念を感じてしまうのだ。いわばマルシルは、昆虫食に対してまだ偏見を捨てきれない一般人代表のようなポジションなのである。 第3話に、こんなシーンがある。「動く鎧を食材にしよう!」と鼻息荒くライオスが提案すると、マルシルは「こんな訳のわからないもの、食べられるはずないでしょ!」と激昂。するとライオスはこう優しく諭すのだ……「まあまあ、マルシル。どんな食べ物も、最初の一口は訳のわからないものだ」。飽くなき食へのチャレンジスピリット! 毎週欠かさず『ダンジョン飯』をチェックしている筆者も、2024年は昆虫食デビューすることを固く誓っているのである。 ■参考 ※ https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu03830870295
竹島ルイ