「分かっている」という厄介な思い込みをなくすには 【原文】How to Overcome the Annoying Assumption of Knowing
こちらの話をさえぎり、いつも先回りして結論を言おうとする友人が私には二人いる。それは、いらいらさせられる癖であるだけでなく、彼らの言うことはほとんど間違っている。 彼らの頭脳がそのように働くのは何か目的があるのかもしれないし、不安だからそうなるのかもしれない。あるいは、頭の回転が速すぎるだけなのかもしれない。理由はどうであれ、二人とも私の話を聞いていないし、私の心の内を読むこともできていない。どれほど私のことを分かっているつもりでも、話を最後まで聞かなければ、私が何を望んでいるのか、物事をどう見ているのかは知りようがない。 相手の望みや物事の見方を知っていると思い込むのは、コーチやリーダーにありがちな悪い癖だ。たとえ途中で口を挟んだりしなくても、相手の言いたいことが分かっているつもりだったら、その思い込みはたいてい間違いだ。全体はつかめることができても、重要な細部は見えていない。これでは相手の望みを反映した結果は得られない。 「分かっている」と思い込み、相手が言いたいことや求めていることを知っているつもりになり、十分に相手の話を聞いて相手が本当に望んでいることが何かを確認するプロセスを怠ると、相手との関係が損なわれる可能性がある。神経生物学者のスティーブン・ローズは、著書『The Future of the Brain(脳の未来)』(2005年)の中で、本人の生育時の社会的環境を含め、その人の人生の遍歴全体を知らなければ、脳の現時点の状態をスナップショットのように見ることは無意味だと指摘している。
思い込みが対立の原因になることも
「分かっている」という思い込みがチームに対立を生むこともある。明確なビジョンのもとで全員の足並みを揃えているつもりでも、実はどういう解決策を実行しようとしているかについて各人の理解がばらばらな場合だ。全員が達成しようとしている結果についてひとつの明確なビジョンがあり、そこでまとまっていなければ、協力は成り立たない。目標の優先順位やリソースの配分について意見が一致しなくなる。結局、一緒に集まっているときはそれぞれ進捗状況を報告するけれど、いったん部屋を出ると互いに相手の不満ばかりいう集団と化してしまう。 1on1ミーティングでは、キーワードや要求の意味を互いに理解し、どういう最終結果を望んでいるかについて合意が成立していないと、リーダーは部下や同僚の希望と食い違う行動をとり、期待に応えることはできない。結局、誰もが理解されていないと思うことになる。 コーチは、セッションにあたり、目標に対する思い込みを極力抑えるために、クライアントが何を実現したいのか、何を変えたいのかを対話の早い段階で明確にし、合意をとる必要がある。変化の障害になっているものに対応していく過程で、当初の目標は変化することがある。何を達成したいのか、どう変わりたいのか、クライアントが語る新しいイメージを明確にし、共有することで、対話の最後に到達する目標に向かって進捗状況を確かめることができる。これはコーチングのコア・コンピテンシーである。ただ、このコンピテンシーですら、その意味が往々にして誤解されている。現状がどうなっているのかということではなく、クライアントが本当に望んでいることについて明確な合意がなければ、クライアントは自分の悩みを語ることができて良かったと思うかもしれないが、将来同様の状況に直面したときにセッションの最後に了解して決めた対処方法をおそらく忘れてしまっているだろう。 クライアントが望んでいることが、「もっと自信を持ちたい」とか「朝起きたときにもっとやる気を持ちたい」というように漠然としていてつかみどころがない場合は、「自信を持つ」や「やる気を持つ」とは具体的にはどういうことなのか、そのように思えると何が変わるのかを質問する必要がある。こうして明確にしたイメージを改めて提示し、それが望んでいる結果なのかどうか確認することで、コーチとクライアント双方の思い込みをできるだけ排除した合意が成立する。コーチは、そこからこのビジョンに到達するために何を解決すべきかに集中できる。 国際コーチング連盟によると、クライアントの願望―セッションを終えるまでに達成したいこと―が不正確であいまいなままでは、コーチングの方向性が定まらないため、コーチが次に何をしてもあまり意味はないという。合意が対話の枠組みを作るのである。