『光る君へ』本郷奏多の花山天皇が“官能的”過ぎる 吉田羊の芝居が物語る詮子の悲しみも
『光る君へ』(NHK総合)第4回「五節の舞姫」。まひろ(吉高由里子)と藤原道長(柄本佑)はお互いに身分を偽ってきたが、まひろは素性を明かした。道長も真実を語ろうとするが、そこへまひろの父・藤原為時(岸谷五朗)の友人・藤原宣孝(佐々木蔵之介)が通りかかる。その頃、円融天皇(坂東巳之助)の退位と新しい帝の即位の日が決まる。 【写真】SNSでもトレンド入りとなった花山天皇(本郷奏多)の“緊縛” 新しい帝となった花山天皇(本郷奏多)はもはや病といわれるほどの女子好きで、その人物像は強烈だ。本郷演じる花山天皇(師貞親王)が初登場を果たしたのは第2回で、足先で器用に扇子を弄びながら母親と娘の双方に手をつけたという話を意気揚々と話していた。本郷は余裕綽々とした物言いと佇まいで、花山天皇が円融天皇とは全く異なる人物像を印象づけている。 第4回で花山天皇は藤原実資(秋山竜次)を呼び出し、蔵人頭を続けるよう命じるが、実資はその申し出を辞退した。自身の言葉に揺らがない実資に花山天皇は苛立ち、「なぜじゃ、なぜじゃ、なぜじゃ!」と激しく苛立つ姿は子どもが駄々をこねるようだった。叔父である藤原義懐(高橋光臣)に「叔父上、叔父上……」と猫なで声で泣きついたかと思えば、義懐と乳母子である藤原惟成(吉田亮)のかぶり物をはぎとる。当時、かぶり物を取られるということは、今でいう下着を脱がされたのと同じ感覚の恥辱である。義懐と惟成が慌てふためく中、むしゃくしゃした様子を隠さない花山天皇と平静を保つ実資を見ていると、花山天皇がかなり特異的であることが伝わってくる。 即位し花山天皇となった場面での顔つきは麗しく、高貴な印象を抱く。しかし、それ以上に強く心に残るのは、藤原斉信(金田哲)の妹・忯子(井上咲楽)との場面である。花山天皇は忯子の羽織物を脱がし、その目をじっと見つめながら帯で手を縛りあげる。手を縛りあげるという行為やムードのある照明、忯子に触れる花山天皇の手が思いのほか優しく、その丁重さも含めて実に官能的な場面だった。自身を見つめ、小さくうなづく忯子に心惹かれるものを感じたのか、花山天皇は静かに微笑んだ。 忯子が入内する前には、即位の日に高御座の中に女官を引き入れ、ことに及んだという花山天皇だが、政へのやる気に満ちている。花山天皇の革新的な政策は関白や右大臣らには不評のようだが、花山天皇は自信に満ちた表情で「さすれば、民も喜ぼう。そして、朕を尊ぼう」と言った。天皇という立場らしい厳かな空気を纏ったかと思えば、女子好きで破天荒な一面があらわになる。そんな子どもっぽさと気品を併せ持った花山天皇という特異な人物を本郷は巧みに演じている。 第4回は、詮子(吉田羊)に心揺さぶられる回でもあった。吉田羊の演技は、詮子から円融天皇への一途な愛情と、一族の繁栄のために利用される詮子の悲しみを物語る。 詮子は円融天皇の譲位を知り、挨拶のために謁見する。詮子は円融天皇を思い慕っていたが、円融天皇は詮子を冷たくあしらう。粛々と挨拶する詮子の言葉を円融天皇は「黙れ」と遮った。円融天皇は軽蔑するような目で詮子を見下ろすと「朕に毒を盛ったのはお前と右大臣のはかりごとか」と言う。詮子には何のことかわからない。何も知らない詮子に円融天皇は扇を投げつけると、顔に傷を負った詮子にこう言い放った。 「人のごとく血なぞ流すでない。鬼めが」 円融天皇の心を取り戻せなかったばかりか、憎まれてしまった詮子が、愕然とした面持ちで息を詰まらせる姿に心が苦しくなる。 詮子は父・藤原兼家(段田安則)のもとへ行くと、「帝に毒を盛ったというのはまことでございますか!」と声をあげた。けれど、兼家はしらばっくれるばかりだ。知らんふりを決め込む父を前に、詮子は悔しさや悲しさ、やるせなさを感じさせる涙を流す。詮子は兄・藤原道隆(井浦新)が制するのをふりはらい、自身を諌める道隆に「兄上は何もご存知ないのですか!」「嫡男のくせに!」と怒りをぶつける。詮子は兄・藤原道兼(玉置玲央)と弟・道長にも涙ながらに訴えかけるが、真実が語られることはなかった。 詮子の立場に胸を締め付けられる。第2回では円融天皇に文を送り、数年ぶりに顔を合わせることができたものの「見苦しいことをするな」「汚らわしい」と吐き捨てられてしまった。「もう、あのころのことは覚えておらぬ。そなたも忘れよ」と言われた時、詮子は一筋の涙を流していた。円融天皇から深く傷つけられた詮子だが、父に向けて言った「お命までも危うきにさらすとは……」という言葉からも分かる通り、どんなに傷つけられても詮子は円融天皇を一途に慕い続けているのだとわかる。 詮子がその場を去った後、兼家は「興が冷めた」と言い放った。兼家は詮子の心や帝の命には何も思わず、ただ一族の繁栄のために行動する。事情を知らなかった道隆もまた、父の思いを優先した。道長だけが、ゾッとした眼差しで父を見つめていた。
片山香帆