自身の発明が”戦争”に使われ「生まれてきたことを後悔」…ダイナマイトを発明したノーベルから学ぶ「この世の本質」
ダイナマイトとアルフレッド・ノーベル
もう一人、世界で最も有名な人物の一人、アルフレッド・ノーベルの話をしましょう。 「この惨めで半病人のアルフレッド・ノーベルは、この世にうぶ声をあげて登場したときに、人道的な医師によって窒息死させられていればよかった」 これはノーベル自身が、自分の兄に送った手紙の一節です。 別に病気だったわけでも貧乏だったわけでもありません。当時の彼は、ダイナマイトの発明から得られた利益で、ゆとりある生活をしていました。 では、なぜこれほど自虐的な言葉を吐いたのか。 かつて、工事現場で使われていた爆薬、ニトログリセリンには致命的な欠陥がありました。非常に不安定で、震動を加えるだけで勝手に爆発してしまうのです。馬車で運ぶときの震動でも爆発することがあり、事故が多発していました。 科学者のノーベルは「爆発力がニトログリセリン並みに高く、扱いやすい爆薬」を考えていました。その研究の中で、ニトログリセリンを珪藻土に染み込ませて安定させることを思いつきます。 すると爆発力まで向上したのです。これがダイナマイトです。 その結果、工事現場での事故は激減しました。 しかし、ダイナマイトは、第一次、第二次世界大戦で大量に使用され、多くの人々の命を奪うことになります。このことを嘆いたノーベルは、その莫大な遺産を世界の科学発展、平和維持に活用することを望み、ノーベル賞が生まれたのです。
結局は「道具」をどう活かすか
フォン・ブラウン、ノーベルの名前が出たならば、もう一人の科学者の名前も出てきます。アルバート・アインシュタイン。 20世紀最高の科学者といわれる彼は、「E=mc2」という世界一有名な数式を遺しました。この数式は、核融合、核分裂反応の基礎となっています。 つまり、原子力発電はアインシュタインの発想をもとに実用化されているのです。そして、核兵器も。アインシュタインは、広島、長崎への原爆投下を嘆き、「われわれは戦いには勝利したが、平和まで勝ち取ったわけではない」と演説しています。 そして、1955年には、核兵器の廃絶や戦争の根絶、科学技術の平和利用などを世界各国に訴える内容のラッセル=アインシュタイン宣言に署名し、科学の軍事利用への反対を強く表明しています。 ロケットもダイナマイトも核技術も、すべて、「道具」に過ぎません。それをどう活用するかは、人間が考えることです。 核兵器の脅威の責任がアインシュタインにないことは明らかです。 起業家の中には、新たな革新技術によって、あるいは既存の技術、アイデアでも、発想力や想像力によって使い方を変えることで、これまでにないビジネスを起こそうとしているケースも多くあります。 テクノロジー、アイデアは、それだけではただの「道具」または「素材」に過ぎません。どう活かしていくかは、人に委ねられています。 だからこそ、それを活かす人には、創造性だけでなく、倫理観が求められるのです。 『米経済学者「テロ犯罪者と起業家は一緒」…元米経済学会会長が唱えた「日本人は知らない」両者の共通点とは』へ続く
山川 恭弘