ファン&初心者が『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』をネタバレ全開で語り合う!「20年という時間を越えて、また会えた喜び」
2002年にテレビ放送がスタートした「機動戦士ガンダムSEED」(以下「SEED」)。2004年には続編の「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」(以下「DESTINY」)も放送され、新たな世代に向けたガンダム作品として、絶大な人気を得た。そして、シリーズ最新作となる『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』(以下『FREEDOM』)が公開中だ。2024年最速で動員100万人を達成し、興行収入も20億円を突破するなど、約20年ぶりの続編公開ながらも大ヒットを記録している本作の魅力はいったいどこにあるのか?そこでMOVIE WALKER PRESSでは『FREEDOM』の魅力を深掘りすべく、ネタバレありの座談会を実施! 【写真を見る】アスラン搭乗機がズゴックという衝撃のサプライズ!しかもその中には…? ガンダム作品全般に詳しいライターの石井誠を進行役とし、当時からシリーズの大ファンである山岸(30代男性)と、「MOVIE WALKER ムック 永久保存版 『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』Special Edition 運命に抗う意志」編集スタッフの南里(30代女性)、そしてこれまでガンダムシリーズにまったく触れたことのないというMOVIE WALKER PRESS編集部員の山下(20代男性)の4人で、『FREEDOM』への想いや見所、作品の楽しみ方などを語った。 ※本記事には、『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』の核心に触れる記述を多数含みます。未見の方はご注意ください。 ■「ファン同士でいくらでも語れる小ネタが山ほど入っている映画でした」(山岸) 石井「まずは皆さんの感想からお聞きしたいと思います。今回の『FREEDOM』は、『SEED』『DESTINY』に続くお話となるわけですが、みなさんいかがでしたか?」 山岸「僕はもうバッチリ復習した状態で観ているので、冒頭のシーンからテンションが上がりましたね。新キャラもたくさんいましたし。それから、『ガンダムSEED』ファンではなくて、過去のガンダム作品のファンに向けたサービスにも見えるようなオマージュがたくさんあって。それこそ、アグネスは『逆襲のシャア』のクェス・パラヤみたいでしたし、ブラックナイトスコードの面々は、『ZZ』のハマーン・カーンに仕えるグレミー・トトやキャラ・スーンのような感じがしました」 石井「それはわかります。ファウンデーションは『F91』のクロスボーン・バンガード感もありましたね」 山岸「サービス満点だなと。モビルスーツもギャンとゲルググに続いてズゴックまで出て来て!」 南里「ズゴックには私もかなり興奮しました!それもアスランが乗っていますからね」 山岸「映画が終わった後にファン同士で『あそこはこうだった』といくらでも語れる小ネタが山ほど入っている映画でした」 山下「なるほど…と言いたいですが、初心者ファンの僕にはいきなりわからない(笑)!シリーズファンからすると、いろんな楽しみ方ができる映画なんですね」 石井「山下さんは本作が『ガンダムSEED』デビューだったそうですが、戸惑ったりしませんでしたか?」 山下「最初の30分くらいは、理解が追いつかないところがありましたね。ファウンデーション、ユーラシア、オーブ…、いろんな陣営の名前がどんどん出てくるんですが、それについての詳しい説明がないまま進んでいくので。ただ最初こそ『わからないな』と思っていたんですが、途中で実はそんなに複雑な設定ではないことに気づいて。 キャラクターに関しても、キラとシンは『なんか主人公格っぽいな?』とか、オルフェがわりと出番が多いけど『この人は前作にも出ているのかな?』とか、キャラクターも多いので最初はそうした推測をしながらでしたが、途中からはそこも理解できた感じです」 石井「観ていてわからなかったところはありましたか?」 山下「本作を観るうえでは大丈夫だったのですが、どんな関係性が過去にあって戦争をしているのかがわかったら、もっと楽しめるだろうなというのはありましたね」 山岸「コーディネイターとナチュラルがどうして戦争をしているのかとか、初見の方は公式サイトに載っている情報を入れてから観るのが良いかもですね」 石井「ああ、それはありましたね。もちろん、後から調べれば『ガンダムSEED』の基本の基本なのですぐにわかることですし、劇中からでも読み取ることはできますが、そこはもう少し印象が強く残る説明があると良かったなとは思いますね。ただ、本作を観ていて気になったワードがあれば後から遡る、というのもガンダム作品の楽しみ方だと思います。総集編の『スペシャルエディション』を観ても発見があるだろうし、もちろんガンダムファンが話題に出しているワードを検索すれば、『これのことか!』ってなると思います」 山下「劇中には回想シーンも結構あったので、時代背景が知りたくなったのは間違いないです。それこそ、あの謎のマスクの男(=ラウ・ル・クルーゼ)とか気になります!」 石井「そうしたところは、どんどん掘っていくとガンダム作品はより楽しくなりますよ(笑)」 ■「キラとアスランの“友情”が、やっと収まるところに収まったことが一番うれしい」(南里) 石井「南里さんは、本作のムック本の編集を担当していましたが、本編を観てどのような感想を持たれましたか?」 南里「私もすごくおもしろかったです。宣伝では『キラとラクスの愛の物語』という部分がクローズアップされていましたが、私としては『FREEDOM』でやっとキラとアスランが本音で向き合い、同じ方向を見ることができたことに感動しました。もちろん、本作で“愛”はとても重要な要素だと思いますが、キラとアスランの“友情”もやっと収まるところに収まったことが一番うれしかったですね」 山岸「ようやく同じ立場で同じ目標に対して共に戦えるということですね」 南里「そうです。そこが私のなかでは一番熱かったです」 石井「『SEED』や『DESTINY』では、キラとアスランは反目から和解という形を繰り返していたんですが、並び立つまで描いて欲しいという想いがあったのはわかりますね。それを言えば、『DESTINY』のラストでようやく和解したシンは、一緒に戦わずにシリーズが一旦終わってしまっていたので、ようやく3人が揃って同じ陣営で戦うというところは、ファンが待っていたところでもありますよね」 南里「わかります。シンもちゃんと一緒のチームだというのを知ってうれしかったですね。キラに頼りにされたいシンとか本当にかわいかったです」 石井「シンは、『DESTINY』ではわりと沈んだ状態から始まって、闇を抱えていた感じがあったので、今回のシンは本来の彼らしさが出ていて良かったですよね」 南里「純粋なシンをやっと観ることができましたからね。『DESTINY』では、後半がちょっと可哀想だったので」 ■「『言葉に出さなかったからうまく伝わらない』みたいな部分は、当時から追ってきている世代に刺さるのかもしれない」(石井) 石井「僕の感想を言うと、『SEED』と『DESTINY』で描ききれなかったキラとラクスの話に言及することで、2人の関係性を含めて語りきれなかった部分がちゃんと補完されたなという感じがしましたね。『DESTINY』では物語を締める役割をキラが担っていたと思うんですが、大きい戦いの後のキラ個人の悩みとか葛藤は描かれきれてなかった。 さらに、ラクスとの関係も掘り下げる余地があったけど、そこも『DESTINY』では描けなかったので、キラとラクスの話をちゃんと語るには、もう1本お話が必要だったんだなと。そうした考えがあって、今回の『FREEDOM』でちゃんと描くことができたのかなと思います。そういう意味では、『ガンダムSEED』三部作の完結編みたいなポジションとして相応しい流れが『FREEDOM』にはあったのかなと思いますね」 南里「“愛”って言葉が強く出ているんですが、キラとラクスの“絆”を描きたかったのかなと思うんです。キラとラクスは信頼関係が強くて、阿吽の呼吸が伝わるというか。2人とも互いを理解しているから、いざこざも起きなさそうだと思っていたのが、実はそうではなくて。想ったり、信じていたりするだけではなくて、言葉にすることの大切さを改めてこの作品から学んだ気がします」 石井「当時中高生で『ガンダムSEED』を見ていたファンが、20年近く経って年齢的には30代とかになると、結婚とか家庭を持つことが現実的な問題になる世代になっていると思うんです。だから、キラとラクスの『言葉に出さなかったからうまく伝わらない』みたいな部分は、当時から追ってきている世代には刺さるのかもしれないですね」 山岸「『SEED』の前半のころのキラは悩んだりしていましたけど、後半では人類の最高傑作のコーディネイターなんて言われるポジションになっていたので、『DESTINY』の頃には悩んだりしなくなっているのかなと思っていたんです。でも、意外とキラの弱いところがあって、男女関係でちょっと嫉妬したりヤキモチを焼いたりするんだという、人間味を見ることができたのはよかったです」 山下「僕も同じことを思っていました。だから、キラがアスランに殴られるシーンが印象的で。冒頭からキラはクールで冷静な判断をするタイプなのかと思っていたら、あそこでものすごく取り乱して。その人間っぽさはすごく印象的でしたね」 石井「あそこは、福田監督の言いたいことがいろいろと入っているのかなとも取れますね。ある種のメッセージ性というか。それこそ、若い世代の人たちに対して、仕事の仕方とか物の考え方とか、色々と『もうちょっと広い視野を持て』ということを、アスランのセリフを借りて言っているようにも感じられるんですよね」 南里「それを意識してもう1回観たいですね。SEED世代の人たちはいろいろと頑張らなければならない年齢になっていますから」 ■「アスランは出て来た瞬間から非の打ち所のないかっこいいイメージだったんですが…」(山下) 石井「一方で、シリーズを観ていたファンからすると『それ、アスランが言うの?』というツッコミもありましたね」 山岸「そうですよね。前作『DESTINY』で戦況を混乱させ続けた要因の一つは、アスランと言っても良いぐらいですからね」 山下「そうなんですか?アスランは出て来た瞬間から非の打ち所のないかっこいいイメージだったんですが…」 石井「『FREEDOM』で出来上がって、いい男になったんですよ」 南里「アスランはいろいろ所属を変えてきましたよね。毎回悩んで自分の正しいと思う道を模索していました。シンなんかはその影響をモロに受けているんじゃないかな。それもあって、シンはいまだにアスランに対してはちょっと反発している感じがありましたね(笑)」 山岸「セリフで『前回負けたのは、ジャスティスに乗っていたからだ』という風にとれるところもありましたね。『今度はデスティニーに乗ったら俺は無敵だ』みたいな」 石井「シンはイモータルジャスティスをキラから任されていたのは光栄な反面、『でも、ジャスティスってアスランの機体じゃん』というところが絶対にありますよね(笑)」 南里「それはあると思います。セリフの一つ一つがおもしろいですよね(笑)」 山下「すごい情報量の多い作品でしたが、皆さんセリフの一つ一つまでしっかり読み取っているのですね。僕も2回目を観る時は、『SEED』と『DESTINY』を履修したうえで望みたいと思いました」 ■「アコードの能力に、私自身も錯覚させられているようなところはありました」(南里) 石井「本作のモビルスーツに関しては、ライジングフリーダムはキラが乗るのは当然として、イモータルジャスティスはみんなずっとアスランが乗るものだと思っていたじゃないですか。それと一緒にインパルスSpec IIが発表されていたので、それにシンが乗るんだろう…って予想していたのが、見事に外されていくというのもすごいなと。」 山岸「ファンは誰がなにに乗るとか、どういう設定なのかとかすごく考察しているのが、SNSなんかを見るとおもしろかったですし、僕もイモータルジャスティスはアスランが乗ると信じていたので、本編を観て驚きでした」 南里「ファンの方々は本当に細かいところまで観ていて、それこそ予告に出るちょっとした小物から推測する人もたくさんいましたね。そういうところも盛り上がりますし、予告編の編集の妙というか、嘘は言ってないけど本当のストーリーを把握させない構成とか、実際に本編を観た時に驚かせる感じになっていたのは、いい意味でよかったですね」 山下「シリーズ初心者で搭乗機とかがわからなくてもビックリするところはありましたね。『アスランはガンダムに乗らないんだなあ』と思って観ていたら、ズゴックの中からガンダムが出てくるなんてことは想像もできなかったです」 石井「そこは誰しもが驚く場面ですよね(笑)。皆さんは、ほかに驚いた点などはありましたか?」 山岸「たくさんあるんですが、個人的には終盤にイザークとディアッカがデュエルとバスターを引っ張り出してきて、ミーティアをドッキングさせたところですね。イザークが成長して戦いを止める側に回って。そこがファンとしてはうれしいサプライズでしたね」 南里「私はキラが序盤にブラックナイトスコードにやられまくるのに衝撃を受けました。敵としてすごいなって。それから、アコードの能力も中盤までよくわからなくて。キラを暴走させるところも、なにが起こっているのかわからない感じは、私自身も彼らの能力で錯覚させられているようなところはありましたね(笑)」 石井「なるほど。僕はアークエンジェルの撃沈ですね。やっぱり『SEED』の第1話からずっと出続けている母艦だったので、本当に驚いたというか」 山岸「確かに。テレビシリーズを通して『不沈艦』と呼ばれていましたからね」 石井「あそこで、マリューさんが死んでしまうのかなというドキドキ、そして戦力を無くしたキラたちがどうやって反撃するかという後半への盛り上げも含めて、あれくらいやらないと盛り上がらないわけですが、やっぱり愛着がある船なので衝撃でした」 南里「私も悲しかったですね」 山下「強そうでカッコイイ、大きな戦艦だなくらいしか思っていなかったんですが、かなりファンの想いが詰まっている船なんですね」 ■「オルフェは、自分の生まれに翻弄されたところも含めて憎み切れないという感じがしました」(山下) 石井「新キャラクターはいかがでしたか?」 南里「アグネスも良かったですね。キラとラクスの関係を壊そうとする感じを全面に出していて、なかなかいい役だなと思いながら観ていました。性格は違いますが、『SEED』に出て来た、同じ桑島法子さんが演じているフレイを思い出した方も多そうですよね」 山下「アグネスって新キャラなんですね!僕はどれが新キャラか判別できなかったのですが、みんなキャラクターが濃かったです。いろいろ恋愛要素が入ってくるのもおもしろいし、劇中で関係性がわかりやすく描かれているのもよかったです」 山岸「フレイとキラの関係をはじめ、『ガンダムSEED』って昼ドラのように、いろんな男女がくっつきそうとか、別れたとかという部分もたくさん描いていたので、そういう部分を出すには、アグネスやオルフェは重要ですよね」 南里「それから、新キャラ勢はキャストが豪華で聞き応えがありましたね」 山岸「僕は福山潤さんが声を担当している、早口のアルバートさんが良かったです。キャラが立っているし、サブ的なポジションだけどお話を盛り上げてくれて。そのほかにもアーサーとか、マードックさんとか脇役も画面の端っことかにちょっとしか出ていなくても、前に活躍していたサブキャラをちゃんと大事にしてくれているのはうれしかったですね」 南里「確かに、『あの人はいまなにをしているんだろう?』と思うキャラがちゃんと出てきますよね」 石井「ブラックナイトスコードのシュラは、中村悠一さんがすごくいい敵役をやってくれていましたね。尺的なところでは仕方ないですが、それ以外の面々も個性的だったのでもうちょっと活躍が見たかったですね」 山下「特にオルフェは彼なりの信念があって、新キャラなのがびっくりするぐらいいろいろやっていたんだなという感じがありました。それが最後は悲しいモンスター化してしまって…。自分の生まれに翻弄されたところも含めて憎み切れないという感じがしました」 ■「ファンとしては『ガンダムSEED』はずっと続いてほしい」(山岸) 石井「そろそろまとめに入ろうかと思うのですが、こうしていろんなキャラの活躍を見ると、もう少し続きをやったり、空白の2年間を描くスピンオフとかをやってもいいなと思ったりしたのですが、いかがですか?」 南里「私もそう思いました。バルトフェルドさんとかもそうですが、どうしても活躍せずにちょっとだけ出たキャラがいたので、そこは別の形でいいのでスポットが当たってほしいですね」 山岸「カガリやトーヤ、サイやミリアリアにアスランやメイリンがどんな風に絡んでいるのかみたいな、オーブ側の話なんかは作ろうと思えばいける気がするんですよね」 石井「20年経ってもこうして話ができる『ガンダムSEED』の魅力はどこにあると思いますか?山下さんなんかは20年前の作品の続編ということで、映像面なんかも最初は不安もあったりしたんじゃないですか?」 山下「観ていて“古さ”を感じることはなかったですね。モビルスーツも滅茶苦茶かっこいいですし、すごい作画で迫力ありました。少女マンガのようなキャラクターのデザインも、作品の世界にマッチしていると思いましたし、全体的にとても楽しめました。あと20年前からあったコーディネイターやナチュラルの構造自体が、時が経てば経つほど、ある種の現実味を帯びたテーマになっていて、考えさせる要素だったなと思いますね」 石井「人種的な差別の問題をうまく別の形に描いているように感じるし、それこそ昨今の世界情勢の変化とも合致しているようにも思いますよね。『ガンダムSEED』で描かれる戦争は、報復が報復を呼んで悪化していくわけですが、それは現在の世界情勢なんかとも重なって見える。ガンダムから戦争を考えるというところは、長く語ることができる要素だと思いますよね」 南里「そうしたテーマ性ももちろんですが、20年という時間を越えて、またあのキャラクターたちと会えたという喜びは本当に大きかったです。アニメ全般に言えるのですが、同じ世界にいなくても、あのキャラクターたちは二次元の別の世界でずっと生き続けているんだ、という思いがあって。10代という多感な時期にこの作品に出会ったこともあり、友情や恋愛で思い悩むキラやアスランたちには特に思い入れがありました。そんな彼らの物語を劇場版でまた観ることができる、『DESTINY』の後はそうやって生きてきたのね、と知れた喜びがありました」 山岸「やはり、僕も『ガンダムSEED』はキャラクターの魅力が大きくて。キラやアスランはもちろん、マリューやムウの人間関係も話が進むなかで変化や成長があって。劇場版では、そのキャラクターたちの続きが見られるのは大きな魅力だと思いました。もちろんメカも大好きで、モビルスーツのデザインもカッコイイし、ほかのガンダム作品でも新作が出るたびにプラモデルなんかで追っかけていたので、これも世界観を盛り上げる要素だと思います。劇中の世界では戦争が続いてしまうのは問題なんですが、ファンとしては『ガンダムSEED』はずっと続いてほしいですね」 取材・文/石井誠