原監督に見えた名将の品格
読んだ本に刺激を受ける
あれはいつだったか。 原監督から「百田さんの本が凄く面白かったです」という話を聞いた。百田尚樹さん著のベストセラー「海賊と呼ばれた男」である。 石油産業をリードした出光興産の 創業者・出光佐三をモデルにしたノンフィクション小説。戦後、一文無しになった主人公が、従業員、人という財産だけを家族のように大切にして立ち上がるという物語。主人公は官僚や他の石油業者が自分たちの利益しか考えない時に、もっと大きなスケールで日本国の利益を考えていた。 「人は何のために働くか」を考えさせる力作で、主人公が、社員を集めて言う「愚痴をやめよ。ただちに建設にかかれ!」という言葉は印象的だ。原監督は、自らを、この物語の主人公の経営者に重ねていたのかもしれない。スタッフとメンバーを信じて戦い、常にベストを尽くす戦う集団の厳しさを植え付ける。そして、今日、明日の目先の勝ち負けだけでなく、巨人軍の未来を見据えて若手に積極的にチャンスを与える。言われて見れば、今季の巨人のマネジメントは、この本の主人公の成功例に似ている。 原監督は、よく読んだ本の話をする。そこで啓蒙されたもの、学んだもの、刺激を受けた言葉を自らの監督哲学の引き出しにしまい込んでいく。古い話で恐縮だが、かつて巨人のV9時代を作った川上哲治さんは、座禅を組み、書を嗜んだ。人間としての幅を広げて、上に立つ指揮官として心の深みを増す。そういう努力、勉強をしながら上に立つ人間の品格を身につけていった。原監督にも、その名監督の品格が出てきた。そういう品の部分が見えるから、“鬼の采配”をしても反発や分裂を生まずチームはまとまるのだろう。 もうV2か。V3、V4と続いても、なんら不思議ではない気がする。原辰徳監督は、間違いなく名将の域の監督に登りつめた。 (文責・駒沢悟/フリーライター、元スポーツ報知広島番記者)