平均資産額と資産額中央値で読み解く、本当に豊かな国とは
各国を経済規模や総資産でランク付けすると、たいていは米国が首位となり、中国、日本、ドイツなどが続く。だが、国民1人あたりの平均保有資産やその中央値で見ると、トップに君臨するのは別の国になる。 国民(成人)1人あたりの平均資産額では、約68万5000ドル(約1億370万円)のスイスが世界で最も豊かな国となり、ルクセンブルクと米国が続く。 1人あたり資産額の中央値、つまり、その国において自分より裕福な人と貧しい人が同数となる人の資産額で見ると、トップはアイスランドで、資産額の中央値は41万3000ドル(約6250万円)になる。 国民1人あたりの平均資産額と資産額中央値が上位の国と地域(2022年) 平均資産額 1. スイス:68万5226ドル(約1億375万円) 2. ルクセンブルク:58万5950ドル(約8870万円) 3. 米国:55万1347ドル(約8348万円) 4. 香港:55万1194ドル(約8346万円) 5. アイスランド:49万8290ドル(約7550万円) 資産額の中央値 1. アイスランド:41万3193ドル(約6260万円) 2. ルクセンブルク:36万715ドル(約5460万円) 3. ベルギー:24万9937ドル(約3785万円) 4. オーストラリア:24万7453ドル(約3750万円) 5. 香港:20万2406ドル(約3065万円) (出典:出典:クレディ・スイス「グローバル・ウェルス・レポート」) 国民1人あたりの資産での比較は、人口の少ない小国ほど総資産が小さくなる点が考慮されるので、国の豊かさに関してよりバランスのとれた全体像を把握できる。しかし平均値の計算では、社会の中で富がどのように分配されているかという点が考慮されない。これに対して資産の中央値は、国の資産がより公平に分配されているほど値が大きくなる。 アイスランドやスカンジナビア諸国は、富が比較的公平に分配されていることで知られる。クレディ・スイスのグローバル・ウェルス・レポートデータも、ある程度これを反映している。1人あたり資産額の中央値で見ると、デンマークは7位、ノルウェーは10位に入っている。 米国は1人あたりの平均資産では3位だが、中央値では15位に後退する。ベルギーは逆だ。平均資産では13位だが、中央値では3位となり、富の分配という点で平等な国であることが示されている。 1%の役割 平均資産と資産中央値の差の大きさを見ると、米国は平均資産が中央値の5倍を超え(512%)、7位に入っている。主要国でこれを上回るのは517%のブラジルだけだ。 米国では現在、資産額上位10%の富裕層が国の総資産の70%前後を所有し、さらにその半分を上位1%の超富裕層が握っている。富の不平等をさらに大きくしているのは、米国人口のうち貧しい方の半分が所有する富が2%にすぎない事実かもしれない。 米国では一部の欧州諸国とは異なり、1%の超富裕層が所有する富の割合が1980年代に再び上昇に転じた。それまでは、20世紀の産業革命や政治革命によって中産階級が強化されて裕福な市民が増えた結果、多くの地域でこの割合は低下していた。 最近のデータによれば、米国では上位1%の超富裕層に該当するには580万ドル(約8億7800万円)以上の資産が必要となる。スイスでは、この数字が850万ドル(約12億8700万円)とさらに大きくなる。 平均資産と中央値の相対的な差が特に小さいのは、アイスランド、ルクセンブルク、ベルギーなど、資産額中央値の上位に入っている国だ。また、東欧のスロバキアやスロベニアのように、資産額中央値は高くないが、平均資産と中央値の差は小さい国もある。 比較的貧しいのに平均資産と資産額中央値の差が大きい国としては、前述のブラジルのほか、南アフリカ、ロシア、ナイジェリアなどがある。
Katharina Buchholz