【高校野球】昨夏のトラウマを振り払った横浜 慶應を下して夏の第1シードを獲得
先輩からの激励メッセージ
張り詰めてばかりいても仕方ない。試合を前日に控え、リラックスさせた。村田監督は「相手は関係なく、自分たちの野球をやっていこう!!」と選手たちに伝えた。だが、さすがに高校生には、無理があった。迎えた朝。 「シートノックから、地に足がつかない状況だった」。重苦しい雰囲気を振り払ったのが、主将のバット。1回表二死二塁から四番・椎木卿五(3年)が、慶應義塾高の先発・小宅雅己(2年)の変化球を左翼芝生席へ豪快に運んだ。先制2ランで勢いに乗った横浜高は中盤以降にも得点を重ね、9対4で勝利した。 ゲーム後、村田監督は試合内容を問わなかった。この一戦は、結果がすべてだったからだ。 「打つ、打てない、抑えた、打たれたよりも、勝てたことがすべて。乗り越えたのは大きい」 昨夏、先輩の杉山とバッテリーを組んだ正捕手・椎木については、労いの言葉を語った。 「一番、つらい思いをしている。彼にしか分からないこと。彼ならできると信じていました」 9対2で迎えた9回裏の最後の守り。2点をかえされると、村田監督は三番手投手に1年生・織田翔希を起用した。2人の打者を三振に仕留め、慶應義塾高の反撃を振り切った。 「昨夏の決勝を見て『俺たちがやってやるぞ!!』と入学してきた1年生です。こうした公式戦の積み重ねが、自信になっていく。いずれは、彼らが横浜高校を背負っていく立場になる。1年生の頑張りが2、3年生の奮起となり、相乗効果となっている」 ここが、終わりではない。「昨夏、秋(関東大会1回戦敗退でセンバツ出場を逃す)の悔しさがありますので、この春は優勝を狙っています」。5月3日の準決勝では関東大会出場をかけて、東海大相模高と対戦する。 村田監督は最後に、しみじみと言った。 「9回は長かったですよ……」 実は試合前日、緒方と杉山から「絶対に負けるな!!」と激励のメッセージが届いていたという。ただし、ここには裏話があった。 「私には、あえて送ってこなかったようです。2人は、私が気が張っていると、察知していますからね……(苦笑)」。教え子たちの無念を背負い、ラスト1イニングを三塁ベンチでじっと見守った。現役高校生だけではない。オール横浜高校で手にした1勝。1946年創部の野球部の歴史の1ページに深く刻まれた。 文=岡本朋祐
週刊ベースボール