塚原あゆ子×野木亜紀子『ラストマイル』は予言的な作品に? 社会派エンターテインメントへの期待
塚原あゆ子監督の映画『ラストマイル』が来年夏に劇場公開されることが発表された。本作は関東の4分の3を担う大手物流センターを舞台に、世界的ショッピングセンターの段ボール箱の爆発事件をきっかけに始まった連続爆破事件を、流倉庫のセンター長に着任した舟渡エリナ(満島ひかり)とチームマネージャーの梨本孔(岡田将生)を収束させるために奮闘する社会派サスペンス映画だ。 脚本は『アンナチュラル』(TBS系)、『MIU404』(同)で塚原とタッグを組んだ野木亜紀子が担当しており、この二作の世界とつながる「シェアード・ユニバース・ムービー」だと銘打たれている。 2018年に放送された『アンナチュラル』は日本における不自然死の原因を調べるUDIラボ(不自然死研究所)という架空の研究機関を舞台にしたドラマで、法医解剖医と臨床検査技師のチームが、死因のわからないご遺体を調べることで、その背後にある謎や事件を解明していく科学捜査モノのドラマだった。 一方、2020年に放送された『MIU404』は事件の初動捜査や追跡捜査を担当する第1~第3機動捜査隊のヘルプ部署として発足された第4機動捜査隊を舞台にしたバディモノの刑事ドラマ。どちらも一話完結の事件モノのドラマで、社会性の高いモチーフを扱った物語がドラマファンの間で高く評価された。 塚原と野木が作る、この二作と同じ世界観の物語が、今度は映画で観られるということで、早くも話題になっている。『MIU404』の時も『アンナチュラル』のキャラクターが劇中に登場し話題となったが『ライトマイル』にも、UDIラボや第4機動捜査隊の面々がゲスト出演するのではないかと期待できる。 また、20~30代の働く女性の描写に定評がある野木亜紀子の脚本には、出演女優の魅力を引き出す力がある。『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)の新垣結衣、『アンナチュラル』の石原さとみ、『フェンス』(WOWOW)の松岡茉優といった女優は、野木の脚本に出演することで、新境地を切り開いていった。今回主演を務める満島ひかりは、数々の映画やドラマで鮮烈な芝居を見せてきた日本を代表する女優だが、野木の脚本が満島の芝居にどのような化学変化を与えるのか、今から楽しみである。 そして何より「そう来たか」と驚いたのが、物流を題材にしていることだ。来年4月から働き方改革関連法の影響で、トラックドライバーの年間残業時間が960時間に上限規制される。収入が激減するため、廃業を考えているドライバーや運送会社も多く、荷物が期日内に届かない問題が多発するのではないかとも懸念されている。 この問題は「2024年問題」と呼ばれ、ニュース等で多数報道されているのだが、元々、ネット通販の普及により物流業界が取り扱う荷物の量は年々増加しており、慢性的な人手不足もあり、いつパンクしてもおかしくない状態が続いていた。 物流は動脈・静脈といった血液を運ぶ毛細血管に喩えられることが多いのだが「荷物の中に何者かが悪意を持って爆発物を紛れ込ませたとしたら?」という最悪な想像を、映画のアイデアに用いたのは、流石『アンナチュラル』と『MIU404』で、様々な社会問題を社会派エンターテインメント作品として世に送り出してきた塚原と野木のコンビである。 『アンナチュラル』の第一話は、新型コロナウィルスのパンデミックを先取りした予言的な物語だったが、『ラストマイル』も予言的な映画になるのかもしれない。
成馬零一